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「君の気持ちはよくわかる」が相手の反発を逆に招くカラクリ

 誰かの話を聞くとき、ただ聞けばそれでいいのでしょうか。実は相手の本音は、自分の言葉や気持ちを、相手が真剣に受け止めてくれることを望んでいるということが往々にあります。

 そんな心の声を形にした考え方が、バリデーションです。簡単に言えば、相手の話に耳を傾けて、その話を真剣にとらえ、こちらが理解したことが相手にきちんと伝わるようにすること。この対話の技法を身につけることで、人と人との関係がより深く、より確かなものになっていきます。

 行動科学的な視点から、人間関係における「トゲ」をなくして他者と生きる術に迫った『あいては人か 話が通じないときワニかもしれません』より、バリデーションを、日常のコミュニケーションに活かすヒントをご紹介します。

『あいては人か 話が通じないときワニかもしれません』

「『わかる』より『「辛い気持ち」なのはよくわかる』

 バリデーションをすると、相手はまわりの人や集団から、自分の訴えていることが真実であり、正当な言い分だと認めてもらえたと感じる。また、軽んじられず温かく接してもらえたとも感じる。

 バリデーションがうまくいかないと、その人は、自分の訴えが真実で正当な言い分だと認めてもらえていないと感じる。また、軽んじられ冷たくされたと考えて、守りの態勢に入る。そして心の受信アンテナが、安心できるような兆候を必死に探す。

 「認められた/認められない」の感覚は、自分がその集団に「属している/属していない」の問題に直結する。

 私はこの集団の一員だろうか? 私の訴えていることを、彼らは真剣にとりあってくれているだろうか? 私という人間は重要視されているだろうか?

 集団の一員かどうかは、生死に関わる問題だ。だから、バリデーションは時間をかけてじっくり取り組む必要がある。

 これは、相手の信頼を得て、こちらの話を聞いてもらうための鉄則だ。

 バリデーションには、さまざまなメリットがある。たとえば、相手の強い感情や反応がだんだんと和らいでいく。また、他者の話を聞くことで多くの気づきや学びが得られ、自分自身の知識も増える。

 とはいえ、私たちは本当に他者を理解できるのだろうか? もしかしたら、心から理解することはできないかもしれない。ひょっとすると、相手は怒りだすかもしれない。あなたが「気持ちはわかるよ」と言っても、相手は「きみにぼくの気持ちがわかるわけがない」と言い返してくるかもしれない。これは、相手がサル脳やワニ脳のモードのときに起きやすい。

(※私たちの脳は、生物進化の歴史を映し出す3層構造をしている。最も基礎となる部分は生存本能を司り、爬虫類と同じような機能を持つことから「ワニ脳」と呼ばれる。その上には感情を扱う「サル脳」、さらには人類特有の論理的思考を可能にする「ヒト脳」が重なっていると本書では解説している)。

 また、「気持ちはよくわかる」というような言葉は、口先だけの決まり文句として受け取られ、かえって反発を招く場合もある。

 相手がサル脳モードなら、「何を理解したか」を具体的に言えば、相手も納得するだろう。「きみの気持ちはよくわかる」ではなく、たとえば「きみが難しい状況にあるのはよくわかる」とか「きみが辛い気持ちなのはよくわかる」と言うのだ。

 何を理解したのか明確に伝えれば、相手は、わかってくれたと思うはずだ。しかし、相手がワニ脳モードなら、この方法は使えない。この場合は、こちらもワニ語を話さなければならない。

 次に挙げるのは、哲学者セーレン・キルケゴールの有名な言葉だ。これは、まさしくバリデーションのことだ。

「ある人を特定の場所に導きたければ、何よりもまず、その人がどこにいるかを探して、そこからはじめることが大切だ。[中略]これができないのに自分は他者を助けられると思っているなら、それは思い違いだ。誰かを本当に救うためには、その人が理解しているより多くの物事を理解しなければならない──だが、何よりもまず、その人が理解していることを理解しなければならない。

 それをしないと、自分がどれほどわかったと思っていても、相手を救うことはできない。にもかかわらず、自分はすべてわかっていると主張するなら、それは自惚(うぬぼ)れ、あるいは傲(おご)りであり、相手のためを思っているのではなく、相手から称賛されたいだけなのだ

「見ていること」を感じさせる言葉

 バリデーションの手法は、たくさんある。言語と非言語、どちらのコミュニケーションも使える。

 心理学者のアンナ・ケイバーとオァサ・ニルソンは、弁証法的行動療法(DBT)について解説した著書のなかで、バリデーションのさまざまな手法について述べている。DBTでは、まず慎重にバリデーションをしてから次のステップに移る。

 次に挙げるのは、DBTからヒントを得たものだ。

・相手の話にじっくり耳を傾ける
・相手がどんな気持ちでいるのか、よく考える
・相手の話を要約して言いなおし、こちらが正しく理解していることを示す
・相手の気持ちをくみ取り、たとえ相手が語らなくても、その思いをこちらが察していることを示す
・相手の話を否定しないで、理解する
・相手が問題を抱えていることに共感し、理解する
・相手を自分と対等にとらえ、誠実に接し、上からものを言うような態度をとらない
・必要があれば、自分にも相手と同様に弱いところがあるのを示す

 いまの社会はストレスにあふれ、仕事が原因の精神疾患もかなり増えている。私たちには応援や励ましがもっと必要なのかもしれない。そうした応援があるのとないのとでは、ずいぶん違う。とりわけ辛い出来事に直面している時期には、それが必要だ。

 普段の生活でどんどんバリデーションをすれば、接する相手の態度や姿勢も変わるはずだ。バリデーションの機会を探すときは、いつもまわりをよく観察すること。機会はあなたが思う以上に、たくさん転がっている。

 作家で、子どもの発達の研究者でもあるL.R.ノストの興味深い名言を紹介しよう。

「毎日、子どもたちは何かにつけて同じ小さな問いを、いろいろな言い方で投げかけてくる。『ねえ、聞こえてる?』『私のこと見てる?』『ぼくって大切?』。子どもは大人を映す鏡だ」

 幼い子どもたちが大好きな「いないいないばあ」は、つまるところ、自分が見られることに喜びを感じる遊びといえるだろう。この遊びは、「あなたが見えない」「あなたが見える」「あなたが見えない」「あなたが見える」の繰り返しだ。そして、自分が見られているとき、子どもの顔が喜びでぱっと輝く。

 小説家のヤルマル・セーデルベリは、著書『Doctor Glas』(未邦訳)で、こう記している。

「人は愛されることを望んでいる。それが叶わなければ、称賛されることを望んでいる。それが叶わなければ、恐れられることを望んでいる。それが叶わなければ、憎まれ、蔑まれることを望んでいる。[中略]人は忘れ去られることを身震いするほどに恐れ、どんな代償を払ってでも人とのつながりを求める

<本稿は『あいては人か 話が通じないときワニかもしれません』(サンマーク出版)から一部抜粋して再構成したものです>

(編集:サンマーク出版 Sunmark Web編集部)
Photo by Shutterstock

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【著者】
レーナ・スコーグホルム(Lena Skogholm)
行動科学の研究者。講演家、教育者。年に80回近く講演や講義を行い、スウェーデンで最も人気のある講師100人の1人に選ばれた。温かさとユーモアにあふれる語り口と、明快でわかりやすい解説には定評があり、2021年には、スウェーデンのすぐれた講演者に与えられるStora Talarpriset賞を受賞した。25年にわたり研究を続ける脳科学にもとづいた人づきあいのメソッドは、職場や私生活で今すぐ役立つツールとして、高く評価されている。
本書『The Connection Code』(Bemötandekoden:konsten att förstå sig på människor och få ett bättre liv.)は、スウェーデンで発売と同時に売上ランキング上位に入り、ベストセラーとなった。国内外で話題の本となっている。

【訳者】
御舩由美子(みふね・ゆみこ)

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