人は「56種類から選ぶより4種類から選ぶほうが断然買いやすい」に映る真理
選択肢は多ければ多いほど「うれしい」「贅沢に感じる」「満足度が上がる」「自由になった気がする」……。
そう感じる人がいるかもしれません。
けれども実際は、その逆です。
やったほうがいいのはわかっちゃいるけど、なかなか始められない。そんな人に向けて脳をその気にさせる方法に迫った脳神経外科医、菅原道仁さんの著書『すぐやる脳』よりお届けします。
決めたければ「選択肢」を減らす
1995年、スタンフォード大学の研究者マーク・レッパー氏と、コロンビア大学のシーナ・アイエンガー氏によって行われた有名な実験があります。
土曜日の午後、高級スーパーマーケットに、ジャムの試食コーナーを設けます。
1回目は、24種類のジャムを並べます。
2回目は、6種類のジャムを並べます。
そして、「集客」「試食」「購入者の割合」などについて、比べました。
24種類のジャムが並べられたときは、立ち止まったお客さんの60%が試食をしましたが、そのうち3%しか購入しませんでした。
6種類のジャムが並べられたときは、立ち止まったお客さんの40%しか試食しませんでしたが、そのうち30%近くが購入しました。
この実験で、「選択肢が多すぎると購買意欲が低下する」「選択肢は限定したほうが購買に結びつきやすい」という事実がわかりました。
この法則は「選択肢過多」(choice overload)と呼ばれます。
人間は選択肢が多いと、自由度が高いように見えて、「選択マヒ」に陥り、苦痛に感じます。そして、ついには選択をやめることさえあります(選択の放棄)。
相手に何かを決めてもらうときは、選択肢は減らすほうが、親切なのです。
また、自分が何かを決めるときも、選択肢は減らすほうが、ラクなのです。
P&Gは膨大な製品数を絞り込んだ
21世紀になると、選択肢過多という教訓は全世界に広がり、多くの企業に浸透していくようになります。2011年の『ウォール・ストリート・ジャーナル』でエレン・バイロン氏は次のように書いています。
「イギリスの市場調査会社ミンテルによると、昨年に新発売された歯磨き粉は69種類。2007年の102種類から減少しています」
世界最大の日用品メーカー、アメリカのプロクター・アンド・ギャンブル(P&G)社も、それと呼応するように次のように発表しました。
「全世界で製造するオーラルケア製品の数を、過去2年間で〝大幅に〟減らしました」
「より少ないほうが適切、という原則を理解した」というのが、その理由です。
2007年には、アメリカ・スタンフォード大学経営大学院のジョナサン・レバーブ准教授が、次のような興味深い実験を行っています。
ドイツの3都市の新車販売店で、750人のお客さんを対象に次のような実験を行いました。当時のドイツでは、新車購入の際はカスタムオーダーが一般的で、膨大な選択肢の中から、お客さんがひとつずつ決断するというシステムになっていました。
「56色の内装」
「26色の外装」
「25種類のエンジンとギアボックスの組み合わせ」
「13種類のホイールリムとタイヤの組み合わせ」
「10種類のハンドル」
「6種類のバックミラー」
「4種類の内装スタイル」
「4種類の変速ノブ」
レバーブ准教授は、750人を2つの群に分け、決断の様子を調べました。
◆「降順のグループ」
(「56色の内装」「26色の外装」……「4種類の変速ノブ」と降順で選ぶ)
◆「昇順のグループ」
(「4種類の変速ノブ」「4種類の内装スタイル」……「56色の内装」と昇順で選ぶ)
選択肢が多いと脳も疲れてしまう
「降順のグループ」(選択肢が多い順)は、次第に「選ぶ」ことをやめるようになります。「もう標準設定でよい」と、「選ぶ」ことを放棄する傾向がありました。
一方、「昇順のグループ」(選択肢が少ない順)は、「降順のグループ」よりも多くのカテゴリーを自分で選びました。
また、何度も「選ぶ」ことをしたあとでは、「もう何でもいい」という態度になり、次の選択肢がたとえ4種類しかなくても、店員のすすめるまま高い選択肢を選ぶことがわかりました。
その結果、「最も安価で買った人」と「最も高額で買った人」の差額は1台あたり1500ユーロ(約18万円)にもなったそうです。
レバーブ准教授は、この研究結果を2007年の論文で発表します。
すると2011年、高級日刊新聞紙『ニューヨーク・タイムズ』で取り上げられました。また、その掲載に関わったジャーナリストが「決断疲れ」(decision fatigue)という新語をつくり、世界中の知るところとなりました。
体を動かして疲労をするのと同様に、「選ぶ」ことも脳を疲れさせます。
もしあなたが「選ぶ」際は、選択肢の数を少なくすることを念頭に置いてみてください。
<本稿は『すぐやる脳』(サンマーク出版)から一部抜粋して再構成したものです>
(編集:サンマーク出版 Sunmark Web編集部)
Photo by shutterstock
【著者】
菅原道仁(すがわら・みちひと)
脳神経外科医
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