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「両足骨折の中で5カ月の訓練を乗り切った」米軍特殊部隊“伝説の男”の壮絶な体験

 アメリカ海軍の特殊部隊ネイビーシールズには、BUD/S(バッズ=基礎水中爆破訓練)と呼ばれる24週間(約5カ月)の過酷な志願者選抜訓練があります。退役海軍特殊部隊員(ネイビーシール)として、米軍で初めて陸海空の特殊訓練を修了、ウルトラマラソンやトライアスロン、懸垂などで数々の記録を打ち立てたデイビッド・ゴギンズ氏は、1週間に60マイル(100キロ)以上走るBUD/Sに、両脛が骨折していたまま挑みました。

 極限状態において彼はどうやってその凄まじい試練を乗り切ったのでしょうか。全米で500万部を突破し、世界24カ国で翻訳された著書の邦訳版『CAN'T HURT ME(キャント・ハート・ミー) 削られない心、前進する精神』よりお届けします。

『CAN'T HURT ME(キャント・ハート・ミー) 削られない心、前進する精神』(サンマーク出版) 書影画像
『CAN'T HURT ME(キャント・ハート・ミー) 
削られない心、前進する精神』

俺はとんでもない計画を思いついた

 人間はどれだけの痛みに耐えられるんだろう? 俺には砕けた脚で走るだけの力がまだ残っているのか?

 翌朝3時半に起きて、車で基地に向かった。足を引きずりながら、ギアを置いてあるロッカー室に入り、ベンチにどっかり座ってバックパックを下ろした。中も外も真っ暗で、部屋には俺1人。波が砕ける音を遠くに聞きながら、ダイビングバッグをゴソゴソ探っていると、道具に埋もれた2巻きの粘着(ダクト)テープが手に触れた。俺はやれやれと首を振ってニヤッと笑い、テープを取り出した。とんでもない計画を思いついたんだ。

 右足に厚手の黒い靴下をこわごわ履いた。脛に触れると激痛が走り、足関節をちょっとひねっただけで痛みはMAXになった。靴下を履いたかかとにテープを1周巻いてから、次に足首をぐるっと巻き、またかかとに戻る、をくり返して、足元全体をグルグル巻きにした。これが1つ目の層だ。その上にもう1枚靴下を履いて、足と足首を同じようにテープで巻いた。こうして2層の靴下と2層のテープで足が保護された。その上からブーツを履いてひもを締めると、足首と脛が守られ、がっちり固定された。

 俺は満足して、左足も同じように巻き上げ、1時間もすると両足に柔らかいギプスを巻いたようになった。歩くとまだ痛かったが、足首が動いた時の痛みには耐えやすくなった。少なくとも、その時はそう思えたんだ。本当かどうかは、走り始めたらわかる。

「どうしても失敗したいなら、今この場でやめろよ」

 その日の最初の走り込みは炎の試練となった。俺は股関節屈筋に頼って走ろうとした。普通なら、足が自然に動いて、走るペースが決まる。でもこの時は「頭で」動きを考えなくてはいけなかった。1つひとつの動きを切り離し、股関節から下の脚で勢いと力を生み出すためには、一心不乱に集中する必要があった。

 最初の30分は人生最大の痛みを味わったね。テープは肌に食い込むし、地面に着地する衝撃でヒビ割れた脛に激痛が走った。

 そして、これは5か月も続く試練の、最初の走り込みでしかなかった。来る日も来る日も、これほどの苦しみに耐えられるんだろうか? BUD/Sをやめるという考えが、また頭をよぎった。

 どうせ失敗してゼロからのやり直しになるんだ。この演習をやることに何の意味がある? おまえ、往生際が悪いぞ、アホなのか?

 でも、どんな考えも、結局はいつもと同じ素朴な疑問に行き着いた。なぜだ?

「どうしても失敗したいなら、今この場でやめろよ、このクソ野郎!」と、自分に向かって言った。俺の心身をぶっ壊そうとする苦痛に負けじと、心の中で絶叫した。「苦痛を乗り切れ。じゃねえと、ただおまえが失敗するだけじゃない。家族の失敗になるんだぞ!」

 それから、これをやり遂げたら「どんな気持ちになるか」を想像した。もし痛みに耐えて、このミッションをやり遂げたらどうなるだろう? それを考えるだけで、もう半マイル(800メートル)走れた。そして痛みが嵐のように体を駆けめぐった。

「健康体でもBUD/Sを突破するのは大変なのに、おまえは砕けた脚でそれをやろうとしている! そんなことを考えるやつがほかにいるか?」と自問した。「脚が1本ならまだしも、2本も砕けているのに、1分走れるやつがほかにいるか? そんなことができるのはゴギンズ、おまえだけだ! もう20分も走ってるぞ、ゴギンズ! たいしたもんだ! これから走る1歩1歩が、おまえをタフにする!

 最後のひと言が、パスワードのように呪縛を解き放った。鍛えた心が前に進む力をくれた。

 そして走り始めて40分たった時、ものすごいことが起こった。痛みが潮のように引いたんだ! テープが緩んで肌に食い込まなくなり、筋肉と骨が温まって衝撃を少し吸収できるようになった。その後痛みは強くなったり弱くなったりをくり返したが、それでも前よりは耐えやすかった。痛みがひどくなっても、「これは俺がますますタフになっていることの証拠だ」と自分に言い聞かせた。心が鍛えられている証拠だ、と。

潜水訓練には3度目のトライでギリギリ合格した

 この儀式を毎日くり返した。朝早く行って、テープで足を巻き、30分の激痛に耐え、自分を励まして生き延びた。これは、「願えばかなう」とかいうたわごとじゃないぜ。俺は毎日、死ぬほどの苦痛を覚悟して訓練に足を運んだ。そんな自分が本当に誇らしかったね。

 そして教官たちもたっぷり見返りをくれたよ。水中訓練では俺の手足を縛ってプールに投げ込み、「4往復泳げ」とほざきやがった。これは「溺死防止」と呼ばれる強化訓練の1つなんだ。俺は「計画的溺死」って呼んでいたけどな!

 両手足を後ろで縛られていると、ドルフィンキックしかできない。マイケル・フェルプスの遺伝子を持っているような泳ぎの名手とは違って、俺のドルフィンキックは電動木馬みたいでほとんど進まないんだ。息を切らし、水面近くにとどまるためにジタバタしながら、カメみたいに水面に首を伸ばして呼吸しようとした。なのに沈んでしまい、水底を強く蹴って浮き上がろうとしても、勢いが得られない。

 俺は練習をくり返した。何週間もプールに通った。浮力を得るために、水中爆破工作部隊(UDT)の短パンの下に、ウェットスーツ素材の短パンを穿いたこともある。UDTのピタピタの短パンの下に穿くとオムツみたいに見えたし、浮力も得られなかったけどな。でも溺れる感覚に慣れたおかげで、試練に耐え、演習に合格できたんだ。

 フェーズ2の潜水訓練にも過酷な水中演習があって、やっぱり立ち泳ぎが必要だった。「立ち泳ぎ」なんて聞くと、簡単そうだろう? でもこの訓練は、満タンにした2連の80リットル酸素タンクを背負って、7.3キロの重量ベルトをつけたままやるんだ。足にはフィンをつけるけれど、フィンで蹴ると足首と脛の痛みと負荷が何倍にも増幅する。水中演習中はテーピングが効かないから、痛みに耐えるしかなかった。

 立ち泳ぎの後は、フル装備のまま仰向けで沈まずに50メートル泳ぎ、ターンでうつ伏せになって、水面に浮きながら泳いで戻ってくる! 浮き具も使えない。ずっと顔を上げているせいで、首と肩、腰、背中が激しく痛んだ。

 あの日プールから聞こえてきたノイズを、俺は一生忘れないよ。水面に浮かび、呼吸しようとしてあがく俺たちの、恐怖と焦燥、奮闘の音だ。水を飲む音や、うめき、あえぎ。断末魔の叫びや甲高い悲鳴。水底に沈んでしまい、重量ベルトとタンクを捨てて水面に浮上した訓練生もいた。

 この演習に1発合格したのは1人だった。どんな演習でも、与えられるチャンスは3度だけ。俺は3度目のトライで、疲れ切った股関節屈筋に鞭打って、長い、流れるようなシザーキック〔はさみのように足を交差させる動き〕をくり出し、ギリギリで合格した。

「ゴギンズ。はしゃぎすぎだ」

 BUD/Sの最終段階「フェーズ3」は、コロナドから100キロほど離れたサン・クレメンテ島での地上戦訓練だ。この頃までには脚が治り、卒業できる確信があった。

 最終段階だからといって、楽なわけじゃないよ。シルバーストランド複合訓練施設にあるBUD/S施設には、いつも大勢の野次馬が詰めかける。いろんな階級の士官が、教官の肩越しに訓練を見ている。でもこの島には俺たちと教官しかいないから、しごきは容赦なくなる。だから俺はこの島が大好きだったんだ!

 ある日の午後、2、3人のチームに分かれて、植生に紛れる潜伏場所をつくる演習があった。もうBUD/Sの終わり近くで、全員が鍛え抜かれて怖いものなしだったが、その反面、気が抜けて細部まで注意が回らなくなっていた。教官たちはそのことにキレて、俺たちを谷に集めて強烈なしごきを与えようとした。

 腕立て伏せと腹筋、バタ足、8カウントボディビルダー(高度な全身運動)をやることになった。わくわくしたぜ! でもその前に、ひざまずいて、首まで埋まる穴を素手で掘れと言う。俺がうれしそうに穴を掘っていると、教官は俺をいじめるための斬新な方法を思いついた。

「おいゴギンズ、立て。おまえはこの演習を楽しみすぎている」。俺は笑って掘り続けたが、教官は本気だった。「立てと言ったんだ、ゴギンズ。はしゃぎすぎだ」

 俺は立ち上がって脇に寄り、クラスメイトが苦しめられるのを30分ただ見ていた。その後もしごきから外され続けた。クラスが腕立て伏せ、腹筋、「濡れて砂まみれ」を命じられても、俺だけ蚊帳(かや)の外だった。

 この仕打ちは、俺がBUD/Sの教官全員の自信を失わせたという証しだった。そう考えると誇らしかったけれど、しごきを受けられないのは残念だった。BUD/Sで心を鍛える最後のチャンスだったのに、教官たちにとって俺はもう用ずみだった。

BUD/Sが終わってしまうのが、ただただ残念だった

 グラインダーがネイビーシール訓練の主な舞台だということを考えれば、BUD/Sの卒業式がここで行われるのも不思議じゃない。この日のために、家族が飛行機でやってくる。父親や兄弟が誇らしげに胸を張り、母親や妻、恋人がめかし込んだゴージャスな姿を見せつける。アスファルト敷きの錬成場に、この日だけは苦しみや惨めさの代わりに笑顔があふれていた。

 海風になびく巨大なアメリカ国旗の下に、クラス235の面々が整列した。そしてその右には、130人の仲間が米軍一過酷な訓練から脱落する時に鳴らした、あの真鍮の鐘があった。訓練生1人ひとりが紹介され、卒業が認定された。

 俺の名が呼ばれた時、母さんの目に喜びの涙が光っていたよ。でも不思議なことに、俺はほとんど何も感じなかった。寂しさだけがあった。

 チームメイトはまずグラインダーで、それからコロナド市内のネイビーシールズ御用達(ごようたし)のパブ、McPs(ミックピース)で、家族と写真を撮って誇らしげに顔を輝かせていた。パブには音楽が鳴り響き、みんなが酔っ払って、戦争に勝利でもしたかのようにバカ騒ぎをしていた。正直、俺はそれが気にくわなかった。BUD/Sが終わってしまうのが、ただただ残念だったんだ。

 初めてシールズをめざした時、俺は自分を完全に打ちのめすか、強靱にしてくれる場を求めていた。BUD/Sがそれを与えてくれた。BUD/Sを通して、人間の心のとてつもない力を知り、その力を使って、経験したことがないほどの痛みを受け入れ、砕けた脚で走るような「不可能なタスク」をやり遂げる方法を学んだ。

 BUD/Sを卒業した今、これからはそうした不可能なタスクを探すのは、俺の仕事になる。ネイビーシールズ史上36人目のアフリカ系アメリカ人としてBUD/Sを卒業したのはどデカい成果だった。でも、不可能を成し遂げる俺の旅は、まだ始まったばかりだ!

<本稿は『CAN'T HURT ME(キャント・ハート・ミー) 削られない心、前進する精神』サンマーク出版)から一部抜粋して再構成したものです>

(編集:サンマーク出版 Sunmark Web編集部) Photo by shutterstock


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【著者】
デイビッド・ゴギンズ(David Goggins)
退役海軍特殊部隊員(ネイビーシール)。米軍でシール訓練、陸軍レンジャースクール、空軍戦術航空管制官訓練を完了した、たった一人の人物である。これまでに60以上のウルトラマラソン、トライアスロン、ウルトラトライアスロンを完走し、何度もコース記録を塗り替え、トップ5の常連となっている。17時間で4,030回の懸垂を行い、ギネス世界記録を更新した。講演者としても引っ張りだこであり、全米の大企業の社員やプロスポーツチームのメンバー、数十万人の学生に、自らの人生の物語を語っている。

【訳者】
櫻井祐子(さくらい・ゆうこ)

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