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トヨタで学んだ「紙1枚」にまとめる技術が複雑な案件でもわかりやすい理由

 路上で外国人に道を尋ねられたとしたら、どうしますか?

 言葉を尽くしジャスチャーを交えて説明することもあるでしょうが、1枚の地図を見せたほうがずっと正確に短時間で伝わることがあります。

 読んでわかるよりも見てわかる。その本質がトヨタ自動車出身で、在籍時に修得したトヨタ独自の「紙1枚」仕事術を体系化して思考整理法としてまとめあげた浅田すぐるさんのロングセラー『トヨタで学んだ「紙1枚!」にまとめる技術』にまとまっています。本書より、そのわかりやすさの秘密について解説します。

『トヨタで学んだ「紙1枚!」にまとめる技術』 サンマーク出版
『トヨタで学んだ「紙1枚!」にまとめる技術』

◎前回までの記事はこちら

「トヨタの1枚」のわかりやすさの秘密

 トヨタにいたころ、私はトヨタの公式ホームページのリニューアル業務を担当していました。

「お客様とのコミュニケーションをもっと高めるために、ホームページをカイゼンするべきでは」という意見が社内で出ていたのです。

 たしかに、当時のトヨタのホームページは、文字がズラリと並んでいるうえに専門用語が多く、一般のお客様からするとわかりにくいものになっていました。けれども一方で、具体的にどこをどう直せばよいのかは見えていない状態でした。

 そんななかで私は、上司から「浅田くん、ホームページのリニューアルについて、1枚にまとめてくれないか」と指示を受けたのです。

 私はさっそく、競合他社と比較するなどして、自社のホームページの問題点を洗い出し、対策案を作成し、1枚の紙にまとめました。

 そして、この「1枚」はその後トップマネジメントにまで報告され、最終的にはリニューアルのゴーサインへとつながっていくことになります。

決定的な違いは「ひと目でわかるかどうか」

 トヨタでは通常、A3用紙を横にして使います。ふだんの業務ではA4サイズの用紙を使うことが大半でしたが、企画書やスケジュール管理などの複雑な案件に関しては、より一覧性にすぐれたA3サイズを用いました。

トヨタで学んだ「紙1枚」の特徴は次の3つ。

①ひと目で全体が見える(一覧性)

②枠がある(フレーム)

③枠ごとにタイトルがついている(テーマ)

(出所)『トヨタで学んだ「紙1枚!」にまとめる技術』(サンマーク出版) ※浅田すぐる氏作成

 この1つである「一覧性」は、わかりやすく伝えるための非常に重要なポイントです。

 たとえば地図を見てどこかへ行くとき、いちばんわかりやすいのは、出発地から目的地までの道のりが1つの紙面に書かれているものです。全体が見えれば、出発地から目的地までの様子がひと目でわかり、距離感や方向感覚をつかめます。到着時間の予想も立てられるでしょう。

 これが、出発地から目的地までの道のりが何枚にも分かれている地図だと、そうはいきません。「この先は○○ページへ」というように、ページをまたいで地図が続いて一覧性がなくなると、わかりやすさが半減します。

 つまり、「紙1枚に収める=一覧性を持たせる」だけで、何枚にもわたる書類より、ずっと伝わるものになるのです。

 さらに、A3用紙は、図表やグラフを入れるのにも十分、かつ見やすいサイズです。「百聞は一見にしかず」で、どんなに言葉を重ねるよりも、見せたほうが、すばやく正確に伝わる場合があります。

 たとえば「今月の売上は△△円しかありませんでした。これは問題です!」などと口頭で言うより、1年間の月別の売上をグラフにしたり、あるいは数年分の当月別の売上をグラフにしたりして見せたほうが、ひと目で危機感が伝わります。

 私がホームページリニューアルの書類を作ったときにも、同じように図表を活用しました。

 いくつか見つかった問題点のうち、重要なものについては、競合するほかの2社のホームページ画像と並べて見せながら指摘しました。これによって、問題点や他社との違いをひと目でわかるようにしたのです。

「読んでわかる」ではなく「見てわかる」ことがポイント

 また、わかりやすさをさらに高めるうえで役立っているのが、残り2つの特徴である「フレーム」と「テーマ」です。

 私が作った書類では、「分析の目的」「評価の視点」「全体の要約」「評価の詳細」「今後の方向性」というテーマの項目に分け、それぞれを枠で囲み、枠の中に重要かつ必要最低限の情報を盛り込みました。

 フレームとテーマがあることで、読み手は「この部分には何が書かれているのか」がひと目でわかります。全体を見渡せば、「この書類は何と何について書かれているのか」もわかります。

 また、読む前にある程度その先がどのような内容なのか見通しがつくため、読みやすさもアップします。

 さらには、テーマがついていることで情報の取捨選択もしやすくなります。「この部分とこの部分は大事だから特に注目しよう」といった、メリハリのある読み方ができるのです。

 このように、「一覧性」「フレーム」「テーマ」という3つの特徴が忠実に入っているからこそ、「トヨタの1枚」は、「読んでわかる」ものではなく、「見てわかる」もの、引いては「伝わる」ものになります。

<本稿は『トヨタで学んだ「紙1枚!」にまとめる技術』(サンマーク出版)から一部抜粋して再構成したものです。本書では浅田さんが体系化した「紙1枚」にまとめる技術を詳しく解説しています>

(編集:サンマーク出版 Sunmark Web編集部)
Photo by Shutterstock


【著者】
浅田すぐる(あさだ・すぐる)
「1枚」ワークス株式会社代表取締役