見出し画像

ジムの語源を知ると大抵の人が割と驚くに違いない話

「昨日、ジムでトレーニングした」

「これからジムに行く」

「ジムに通っている」

 そんな話を聞いて「ストイックだなぁ」「節制していてすごい」「カッコいい」というイメージを持つ人は少なくないでしょう。そんな「ジム(gym)」は英単語。その語源を知ると大抵の人が割と驚くはずです。

『アッと驚く英語の語源』よりお届けします。

『アッと驚く英語の語源』
『アッと驚く英語の語源』

gym/裸の

 gym「ジム」に通って身体を鍛えているという方もいらっしゃるでしょう。私も若い頃はかなりハードなトレーニングをしていたのですが、最近ではもっぱら健康維持とアンチエージングのために、ストレッチや軽めの筋トレ、水中ウォーキングなどをしています。

 このgymという英語はgymnasium*の短縮形で、「体育館」とか「室内競技場」という意味です。ところが語源をたどっていくと、古代ギリシア語のgumnos「裸の」に行きつきます。

(*複数形はgymnasiumsの他にgymnasiaもあります)

 ギリシア発祥の古代オリンピックには、短距離走や中・長距離走、円盤投げ、槍投げ、走り高跳び、レスリング、ボクシングなどいろいろな競技がありましたが、みな全裸で競っていました。

 その理由は、腰につけていた「ゾマ」という褌ふんどしがもつれて命を落とした競技者がいたからとか、衣類を脱いで身軽にしたら優勝したので、みんなそれを真似まねるようになったからなどと言われています。

 でも元来オリンピックは神々に男性の肉体の美しさを披露する祭典でもあったのです。唯一の例外は「戦車競走」、つまり「戦闘用馬車のレース」でした。騎手が馬車から落ちて大怪け我がをしたり死んだりすることもあり、この種目だけは服を着ることになっていました。

 古代ギリシアでは、青年たちが集まって運動する「鍛練所」をgumnasion「ギュムナシオン」と言いました。これはgumnazein「裸で身体を鍛える」という動詞からきています。青年たちは文字通り“裸の体育館”で身体を鍛え、それが終わると浴場で身体を清めた後、ゆっくり休息しました。

「gymn-」から始まるいろんな単語

 やがてこの“鍛練所”には、哲学や道徳、倫理などの教育を授ける「学校」も併設されます。高名な哲学者や雄弁家が講義をし、学問に興味を持つ一般の人々も集まって議論なども盛んに行われるアカデミックな場になったのです。

 このgumnasionはラテン語でgymnasium「ギュムナシウム」となりました。現在のドイツでは、大学進学を前提とした9年制の中等学校のことをGymnasium「ギュムナージウム」と言いますが、格調高いラテン語がそのまま使われているのです。

 英語のgym「ジム」と関連する単語には、「体操選手」「体育教師」という意味のgymnastや「体操の、体育の」「精神鍛練の、知的訓練の」という形容詞のgymnasticなどがあります。みんなgymn-から始まっています。

 他にgymn-で始まる英単語には「裸」という意味が込められているものがあります。ギリシア語のgumnos「裸の」の痕跡が残っているからです。gymnosophistという単語はあまり一般的ではありませんが、「裸体主義者」ということです。禁欲的な修行に明け暮れ、服もほとんど身に着けなかったというヒンズー教の「裸行者」を意味します。

 gymnospermと言えばマツやイチョウなどの「裸子植物」。種子がむき出しになっているからです。「電気うなぎ」もgymnotusと言います。その名の通りelectric eelとも言いますが、背びれがなく裸も同然だったことから、ギリシア語のgumnos「裸の」とnōton「背中」が合わさって、こんな英語が出来上がったのです。

<本稿は『アッと驚く英語の語源』(サンマーク出版)から一部抜粋して再構成したものです>

(編集:サンマーク出版 Sunmark Web編集部)
Photo by shutterstock


【著者】
小泉牧夫(こいずみ・まきお)
英語表現研究家、英語書籍・雑誌編集者

◎関連記事