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「飛行機が予定ルートを飛ぶ割合は?」の答えから考える“人生の真理”
仕事、結婚、子育てなど、人生において「計画通りに進んでほしい」「理想通りになってほしい」と誰もが思います。ただ、現実はそうではありません。
『Think clearly 最新の学術研究から導いた、よりよい人生を送るための思考法』の著者ロルフ・ドベリ氏は「なんでも柔軟に修正しよう」と説きます。
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よりよい人生を送るための思考法』
完璧な条件設定が存在しないわけ
ちょっと想像してみてほしい。あなたはいま、フランクフルト発ニューヨーク行きの飛行機に乗っているところだ。「飛行中、機体が予定されたルート上を飛んでいる」のは、飛行時間全体のどのくらいの割合だと思うだろうか?
飛行時間全体の90%? 80%? それとも70%?
正解は、なんと、「ゼロ%」だ。
飛行機の窓際の席に座って翼のふちのあたりを見ていると、「補助翼」がしきりに動いているのがわかる。
補助翼の役割は、飛行ルートを絶えず修正することにある。自動操縦装置は、毎秒何回も予定位置と現在位置とのずれを感知し、舵の役目を果たす翼に修正指令を出している。
私はよく、小型飛行機を自動操縦を使わずに操縦するが、そうすると、こういう微調整は自分で行うことになる。1秒でも操縦桿を放置すれば、機体は飛行ルートをはずれてしまう。
車の運転も同じだ。一直線にのびる高速道路を運転しているときでさえ、ハンドルから手を離せば車は車線を逸脱し、事故を起こしかねない。
同じことは、私たちの人生にも当てはまる。しかし、私たちの理想はもちろん、飛行機や車と違って予測や計画どおりに進むスムーズな人生だ。
そのために私たちは、せめて最適な前提条件をそろえておこうと「最初の設定づくり」に精を出す。職業教育も、キャリアも、恋人や家族との生活も、すべてにおいて最初に完璧な条件を整えたがる。なんとかして計画どおりに目的地にたどり着けるように。
だが、あなたも知ってのとおり、物事がうまく運ぶことなどほとんどない。人生は常に乱気流の中にあって、私たちはありとあらゆる種類の横風や、予想外の急激な天候の変化と闘わねばならないのだ。
それなのに私たちは浅はかにも、晴天の空を飛びつづけるパイロットのようにふるまっている。最初の条件設定ばかりを重視し、修正の意義を軽んじすぎている。
重要なのは「スタート」ではなく、「修正技術」のほう
私は、趣味で飛行機を操縦するうちに学んだことがある。重要なのは、「スタート」ではなく、「離陸直後からの修正」技術だということだ。
自然は、そのことを10億年も前から知っている。細胞分裂のときには、遺伝物質の複製エラーがたびたび起こる。そのため、どの細胞にも、こうした複製エラーをのちのちに修復するための分子が内包されている。
このいわゆるDNA修復の機能がなければ、私たちは癌ができてからほんの数時間で死んでしまうだろう。
「修正」は、私たちの免疫システムにおいても重要な意味を持っている。
免疫システムに、マスタープランはない。排除すべき外敵を前もって予測しておくことは不可能だからだ。悪性のウイルスやバクテリアは何度も突然変異をくり返すので、常に排除方法を修正していかなければ体を防御できない。
だから、もしあなたが、誰が見てもお似合いのカップルの非の打ちどころのない結婚生活が破綻したと耳にすることがあっても、さほど驚く必要はない。明らかに「はじめの条件設定」を重視しすぎた失敗例だからだ。
誰かと5分間でもパートナーになってみた経験のある人なら、わかるだろう。常に微調整や修正をくり返さなければ、パートナー関係はうまくいくものではない。どんな関係にも、メンテナンスは必要なのだ。
経験から言えば、よい人生とは「一定の決まった状態を指す」と思っている人が多い。それが間違いなのだ。よい人生とは、「修正をくり返した後に、初めて手に入れられるもの」なのだから。
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ものごとがすべて「計画通り」に運ぶことなどない
私たちはなぜ、何かを修正をしたり見直したりすることに、こんなにも「抵抗」があるのだろう?
それは、どんな些細な修正も「計画が間違っていたことの証拠」のように思えるからだ。計画は失敗だったと落ち込み、自分は無能な人間だと感じてしまう。
実際には、ものごとがすべて計画通りに運ぶことなど、まずない。例外的に修正なしで計画が実現できたとしても、それはまったくの偶然にすぎない。
米軍の司令官で、のちに大統領にもなったドワイト・アイゼンハワーはこんなことを言っている。「計画そのものに価値はない。計画しつづけることに意味があるのだ」。
大事なのは「完璧な計画を立てること」ではなく、「状況に合わせて何度でも計画に変更を加えること」。
変更作業に終わりはない。どんな計画も、遅くとも自国の軍隊が敵とぶつかる頃には通用しなくなってしまうと、アイゼンハワーにはわかっていたのだ。
憲法を例にしよう。憲法は、その国の法律すべての基本となる法である。本来なら、その役割にふさわしく時代を超越したものであるべきなのだが、実際には改正されない憲法というのは存在しない。
1787年に制定されたアメリカ合衆国の憲法は、これまでに27回改正されている。スイス連邦憲法は1848年に最初の草案が作成されて以降、2度の全面改正があり、何度も一部が改正されてきた。ドイツでは、憲法にあたる基本法が1949年に制定され、今日までに60回改正が行われた。これはけっして不名誉なことではない。それどころか非常に理に適った措置である。
そもそも「修正する力」は、民主主義の基盤をなすものだからだ。
民主主義とは、最初から適切な夫や妻を選び出すためのシステムではなく(もちろん〝理想的な条件設定〟のために、である)、そのつど修正をほどこしながら、流血の惨事を引き起こさずに、不適切な夫や妻を排除するためのシステムだ。さまざまな社会体制が存在するが、修正メカニズムが組み込まれているのは民主主義だけだ。
しかし残念ながら、そのほかの領域では、積極的に修正をほどこす態勢が整えられているとは言いがたい。特に学校制度の大半は、条件設定のために存在しているようなものだ。
勉強し、学位を取得しているうちに、人生で重要なのはできるだけ高い学歴を手に入れ、できるだけよい条件で社会人生活をスタートさせることだと思い込まされてしまう。実際には、学位と職業的な成功の関連性はどんどん弱くなる一方なのだが。
反対に、ものごとを修正できる力の需要は高まっているのに、修正する力を学校で身につけられる機会はほとんどない。
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早いうちに軌道修正した人こそ、うまくいく
人格を形成するうえでも、「修正力」は欠かせない。
あなたもきっと、成熟した賢明な人物と形容したくなるような人を、少なくともひとりは知っているだろう。
その人が賢くなった理由はなんだと思うだろうか? 生まれのよさや、模範的な家庭や、一流の教育といった条件がそろっていたためだろうか、それとも自分の欠点を克服したり、自分に足りないところを補ったりしつづけた修正の努力の結果だろうか?
結論。「修正」に抱いている悪いイメージを、私たちは断ち切らねばならない。
早いうちに軌道修正した人は、長い時間をかけて完璧な条件設定をつくりあげ、計画がうまくいくのをいたずらに待ちつづける人より得るものが大きい。
理想的な職業教育など存在しない。人生の目的地も、ひとつだけとは限らない。完璧な企業戦術も、最適な株式ポートフォリオもなければ、唯一無二の適職というのもありえない。すべて空想の産物だ。
何ごともある条件のもとでスタートさせ、それが進んでいく過程で持続的に調整をほどこすのが、正しいやり方である。
世界が複雑であればあるほど、出発点の重要性は低くなる。だから仕事でもプライベートでも、条件設定を完璧にしようと力を注ぎ込みすぎないほうがいい。
それより、ダメだとわかったことはそのつど変えていけるような、修正の技術を身につけたほうが得策だ。後ろめたさを感じずに迅速にものごとを修正できるように。
<本稿は『Think cleary』(サンマーク出版)から一部抜粋して再構成したものです>
(編集:サンマーク出版 SUNMARK WEB編集部)
Photo by Shutterstock
【著者】
ロルフ・ドベリ
作家、実業家
【訳者】
安原実津(やすはら・みつ)
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