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脳の力を賢く使いたいなら「マルチタスク」から距離を置いたほうがいいワケ

「後で、メールしないといけない」「○○の件はどうなっているかな」といった懸案事項が頭の中にあると、パソコン内の常駐ソフトが知らないうちにメモリを消耗しているように、気がつかないうちに私たちの脳メモリを消耗しています。

 自分では意識しないかもしれませんが、結果として、仕事の効率を大幅にダウンさせる原因となっています。

 では、どうすれば脳メモリを増やすことができるのでしょう? 

 頭の中をキレイに掃除し、余計な考えを頭の中から全て外に出してしまえば、脳メモリを最大化することができます。

 精神科医・樺沢紫苑さんの著書『記憶脳』より具体的な方法を前後編でご紹介。7つのうち3つを前編で解説します。

『記憶脳』

【脳メモリを最大化する7つのルール①】マルチタスクしない

★ 脳は一度に2つのことができない

 私たちは、同時に2つ以上のことをこなす「マルチタスク」をやりたがりますが、多くの脳科学研究は、脳はマルチタスクをこなせない、マルチタスクをこなそうとすると、脳の効率は著しく低下する、ということを示しています。

 例えばある報告によると、似たような2つの作業を一度に行おうとする場合、効率の低下は80〜95%にもなるそうです。

 また他の実験では、マルチタスク下で運転すると、反応時間が約1.5秒も遅くなることがわかりました。1.5秒は時速50キロだと、約20メートルも進むことになります。

 あるいは、運転中に何かをとろうとしたり、携帯電話に気をとられたりしたことが原因で交通事故が起きた、というのもよく聞く話です。

 マルチタスクをこなしているようで、実は脳の中では、「切り替え」が何度も行われている。

 実際は1つずつのタスクを交互にこなしているだけなのです。

 つまり、脳は「切り替え」のために無駄なエネルギーを相当消耗しているのです。

 マルチタスクを上手にこなす人もいることは確かですが、そうした人は作業記憶が人より優れている。つまり、脳のトレイが3つではなく、4つか5つくらいあるのでしょう。

 マルチタスクはしない。目の前の作業に100%集中する。仕事は1つ1つ完了させていくことが、最も賢い脳の使い方といえるのです。

★ 音楽は仕事にプラスか? マイナスか?

 マルチタスクは仕事の効率を下げるというと、「いや、自分の場合は、音楽を聴きながら仕事をしたほうがはかどる」という人もいるはずです。

 音楽を聴きながら仕事をすると、仕事ははかどるのか、それとも仕事にマイナスの効果を及ぼすのか?

 約200の論文を分析した研究によると、「音楽を聴くと仕事がはかどる」とする研究と「音楽を聴くと仕事の邪魔になる」とする研究がほぼ同数だったそうです。細かく見ると、記憶力、読解力に対してはマイナス。気分や作業スピード、運動に対してはプラスに働くことが多いという結果になりました。

 外科のドクターに話を聞くと、「手術中は自分の好きな音楽をかけたほうが集中できる」と言う人が多くいます。それは、手術は「記憶」「読解」ではなく「作業」だからでしょう。工場の作業ラインで音楽をかけて、作業効率をアップさせている会社もあります。手や体を動かす「作業」「運動」には音楽はプラスに働くのです。

 音楽は、「学習」「記憶」「読解」などにはマイナスに、「作業」「運動」にはプラスに働く。

 あなたの仕事がどのような内容なのかによって、音楽の効果は変わるのです。

【脳メモリを最大化する7つのルール②】気になることは全て書き出す

★「マルチシンク」もNG〜「書いて忘れる」で脳メモリをセーブせよ

 2つ以上のことを同時にこなすことが「マルチタスク」。実は、行動には移さなくても、2つ以上のことを考えただけ、すなわち「マルチシンク」だけで、脳メモリは消耗します。

「後でメールしないといけない」「○○の件はどうなっているかな」「15時から会議」など、頭の中にいろいろな「考え」が飛び交い、「あれもこれも」の状態になっていると、脳メモリが消耗してしまうのです。

 ではどうすれば、そうした「雑念」をかき消すことができるのでしょうか? 

 最も簡単な雑念消去の方法は、「書く」ことです。正確には「書いたら忘れる」ということ。

 私は、予定やスケジュールに限らず、気になることは全て書き出していきます。今日の仕事に関することは「TO DOリスト」に書き、それ以外のアイデア、ひらめきに関しては、パソコン上の「付箋」に書きます。

 仕事をしていると、仕事に関連したアイデアがふとひらめくものです。せっかく浮かんだアイデアですから、忘れてしまうのはもったいない。とはいっても、そのアイデアについて深く考え始めると、「目前の仕事」から脱線してしまいます。そこで、アイデアやひらめきは瞬時にメモし、また元の仕事に戻ります。

 ノートパソコンで仕事をしている場合は、紙のメモに書くよりも、デスクトップ上に既に開いているデジタル「付箋」を使ったほうが早い。1〜2行のメモをするだけなら、10秒か15秒ほどで完了します。その後はまたすぐに元の仕事に戻ります。

 こうすることで、集中を切らさずに仕事を続けることができるのです。

 ここで、きちんとメモしておかないと、後で同じような考えがまた浮かんできて、仕事を邪魔します。重要なのは、「書く。そして、書いたらきれいに忘れる」ということです。

 メモしたのなら、後でメモを見ればいい。だから、忘れてもOK。

「書いたら忘れる」ということを習慣化できると、頭の中に余計な情報が入り込むことなく、常に脳メモリが解放された状態となります。結果として、気持ち良く仕事を続けることができます。

【脳メモリを最大化する7つのルール③】未完了タスクを貯めるな

★ オーバーフローさせない脳の使い方

 ロシアの心理学者ツァイガルニクは、いつも行く喫茶店である発見をします。

 カフェの店員は、客のオーダーをメモもとらずに何人分も正確に記憶しているのに、注文の品を出した途端、オーダーの内容を全て忘れてしまう。そんな不思議な現象に気づいたのです。

 後にこの発見を心理実験で裏付けして、「途中の出来事や未完了の課題は記憶に残りやすい」ということを明らかにしました。これはツァイガルニク効果と呼ばれます。

 テレビ番組で、盛り上がってきたところにちょうど「続きはCMの後で」と入ったり、連続ドラマで「この後どうなるのか?」と先が気になるところで1話分が終わったりしてしまうのも、ツァイガルニク効果を利用して、視聴者の注意を喚起しているからなのです。

 人は何か課題を達成する必要があるという場面では緊張状態となりますが、この緊張は課題が達成されるとなくなり、やがて課題自体を忘れてしまいます。反対に、課題が中断されたり、達成できなかったりすると、緊張状態が続いてしまうため、未完了の課題は強く記憶に残ることになります。

 ときどきブログなどで「ツァイガルニク効果」を紹介して、「中断したほうが記憶に残りやすいので、勉強や仕事は完了させないで、途中で終わらせたほうがいい」といった解説を見かけますが、これは「ツァイガルニク効果」を完全に誤解しています。

 完了するまでは記憶に残っていますが、完了した瞬間に忘れてしまう。つまり、勉強や仕事を中断しても、長期記憶に残りやすくなるわけではないのです。

 それどころか、「完了しない課題」をたくさん抱えると、勉強や仕事の効率は間違いなく低下します。

 喫茶店の店員は、何人分のオーダーを一度に覚えられるでしょう。3人までは楽に覚えられるでしょうが、10人分のオーダーをメモなしで記憶できるかというと、かなり大変なはずです。それは、オーダー数が多くなると、脳メモリの限界を超えてしまうからです。

 喫茶店の店員は、誰が何をオーダーしたのか、注文を出し終わるまで覚えています。この、未完了の記憶を仮に「ツァイガルニク断片」と呼びましょう。オーダーが増えれば増えるほど、脳メモリは忘れてはいけない「ツァイガルニク断片」で占拠されていきます。結果として、あるオーダー数を超えると、脳メモリはオーバーフローを起こします。

 私たちが毎日の仕事の中で未完了の仕事をいくつも抱えることは、脳メモリを「ツァイガルニク断片」で占拠させていることになります。

 結果として、それは「マルチタスク」「マルチシンク」と同様の理由で脳に負荷をかけて、脳のパフォーマンスを低下させます。

 ですから、脳を効率的に使い、仕事のパフォーマンスを上げるためには、「未完了の課題」を1つずつ片付けて、「未完了の課題」を減らすことが重要です。

<本稿は『記憶脳』(サンマーク出版)から一部抜粋して再構成したものです、次回は残り4つの方法について解説します>

(編集:サンマーク出版 Sunmark Web編集部)
Photo by Shutterstock


【著者】
樺沢紫苑(かばさわ・しおん)
精神科医、作家