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寝る人が「夢」を見る時、身体はどうなっているか

寝ている間に見る「夢」。はっきりと内容を覚えていることもあれば、全然記憶に残らない時も。そんな夢を見るメカニズムをご存じでしょうか? 脳や身体に夢は必要なのでしょうか?

 スウェーデン・ウプサラ大学の神経学者と健康問題を20年追ったヘルスジャーナリストが、人間の生活に欠かせない睡眠のさまざまな謎を解き明かした『熟睡者』から一部抜粋、再構成してお届けします。

『熟睡者』(サンマーク出版) クリスティアン・ベネディクト ミンナ・トゥーンベリエル
『熟睡者』


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外見で「夢を見ているかどうか」わかる

 日中はごく普通の生活を送る人が、夜は月へ飛んだり、憧れのスターと結婚したり、子ども時代に戻ったりする。夢は、つねに人々を魅了してきた。

 すばらしい夢の途中で目が覚めると、夢の続きを見られたらと願う。ナイフを喉元に突きつけられるような悪夢を見たときは、すべてが夢でよかったと胸をなでおろす。

 人が夢を見ているかどうかは、基本的に外見から判断できる。

 閉じられたまぶたの下で眼球が活発に動き、起きているようであり、同時に眠っているようにも見える。これは一般に、夢をたくさん見る小さな子どもに顕著だ。

 この睡眠ステージは、先述の目の動きから、「レム睡眠」(Rapid Eye Movement:REM、急速眼球運動)と呼ばれる。

 レム睡眠の割合が大きくなる夜の後半には、血圧の変動が大きくなり、コルチゾール値が上昇し、大脳皮質の一部の活動が著しく増加する。レム睡眠時の眼球の運動にどんな役割があるのかは、まだ十分には解明されていない。夢の中で見ている映像に対する反応ととらえる研究者もいる。

 ほかの研究者は、統制のとれた目の動きが、右脳と左脳間のコミュニケーションをうながし、レム睡眠が創造性にプラスに働くのではないかと考えている。レム睡眠の最初にときどき見られる筋肉のビクッとした動きを、とくに乳児に関しては、脳と筋肉の間の相互作用を鍛えるための、脳の短いトレーニング・セッションではないかと解釈する研究者もいる。

「思い出すもの」がランダムに選ばれる

 レム睡眠の間、脳は覚醒時と同じように活発に動いている。

 レム睡眠の初めには、脳の深部から視床を経由し記憶痕跡(エングラム)の格納場所である大脳皮質に脳波が送られる。PGO波(ponto-geniculo-occipital waves)と呼ばれるこの脳波は、大脳皮質の異なる領域の活動をうながし、それにともない様々な記憶内容が活性化される。

 しかし、覚醒時やノンレム睡眠時とは異なり、海馬はレム睡眠の間、どの記憶内容を活性化させるかの指揮権をもたない。レム睡眠中の記憶内容の選択は、むしろ偶然に支配される。日中に経験したこと、その中でもとくに、感情を呼び起こしたものや覚醒時に完全には処理されなかったものが活性化される。

 忘れられていた過去の思い出が呼び起こされることもある。だが、何年もすっかり忘れていたような若い頃の恋の相手がなぜ突然夢に現れるのだろう? 少し前に経験した、その人に結びつく些細な出来事がその背景にあると考えられる。

 もしかしたら、その前日、映画館の前に並ぶ人の中に、昔の恋人のお気に入りだったTシャツに似た服を見かけたのかもしれない。もしくは、街中ですれ違った誰かが、昔好きだった人が愛用していた香水と同じ香りをまとっていたのかもしれない。

 私たちの夢の一部になる感情の轍(わだち)を敷くには、ほんの小さなことで十分なのだ。

その日「経験したこと」で夢が構成される

 私たちの夢はおそらく、その日に経験したことの産物ではないだろうか。

 夢は物事を試し、世の中を理解するうえで役立つ「創造的な関連性」を生み出すために活性化される、偶然の記憶痕跡だ。このことは、子どもたち、とくに小さな子どもたちが、たくさん夢を見る理由を説明しうる。夢を見ることは、学んだことや見たことを処理し、整理するうえで役立つのだ。

 海馬と同じく理性をつかさどる前頭葉も、普段は外からの情報を処理し、衝動を制御し、合理化する役割を担うが、このステージではどちらかというと受動的である。

 もしかしたらそのことが、夢が往々にして支離滅裂な原因かもしれない。なにしろ、屋根の上でオオカミに追いかけられたり、壁を通り抜けたりするのだから。

 私たちの筋肉がレム睡眠中に麻痺したような状態に置かれるのは、幸運としか言いようがない。レム睡眠中、随意筋は神経刺激を受けないので、夢の内容に反応できない。そのため、夢で見ていることが物理的に実行に移されることはほとんどない。

 ところが、いわゆるレム睡眠行動障害に悩む人はレム睡眠中に随意筋が遮断されず、夢の内容に合わせて体が動いてしまう。当然のことながら、これは危険をともなう問題である。

「夢で「起きる準備」をしている

 深い眠りは夜の前半に多く発生し、睡眠の進行とともにしだいに短くなっていく。それに対し、夢を見るレム睡眠の時間は前半が短く、明け方にかけて長くなっていく。

 つまり、私たちは一晩中夢を見ているわけではない。夜通し夢を見ていると思っている人も少なくないが、おそらく、夢の途中で目覚めることが多いため、そう感じるのだろう。実際、夢を見ている間に脳はゆっくりと、起きて現実に戻る準備をする。目を覚ます直前にとくに多く夢を見るのはこのためだ。

 なお、人はほかの睡眠ステージでも夢を見ることがわかっている。ただし、これらの夢は感情的なものよりも、日中に取り組んだ事実(問題の解決や単語の勉強など)に関連することが多い。

<本稿は『熟睡者』(サンマーク出版)から一部抜粋して再構成したものです>

(編集:サンマーク出版 Sunmark Web編集部)

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【著者】
クリスティアン・ベネディクト(Christian Benedict)
1976年、ドイツ・ハンブルク生まれ。スウェーデン・ウプサラ大学准教授、神経科学者、睡眠研究者。キール大学の栄養科学修士課程を修了。リューベック医科大学で神経内分泌学を研究、博士号を取得。2013年よりウプサラ大学の教壇に立つとともに、同大学の睡眠研究を牽引。
ミンナ・トゥーンベリエル(Minna Tunberger)
ジャーナリスト、作家。約20年にわたり、スウェーデン通信(TT)や日刊紙「スヴェンスカ・ダーグブラーデット」等の主要メディアに健康をテーマにした記事を執筆。

【翻訳者】
鈴木ファストアーベント理恵(すずき・ふぁすとあーべんと・りえ)

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