地図をなにげに眺める人が恐らく気づいていない3つの真実
見知らぬ土地を訪れた時、あるいはそこに思いを馳せる時に地図を見ることがあるでしょう。ただ、その地図を鵜呑みにしてはいけません。地図は現実ではなく、過去のある時点におけるスナップショットでもあるからです。
「最高の地図があっても「不完全」と考えたほうがいい理由」(7月11日配信)に続いて、抽象を道具に現実をとらえる考え方について、人類を代表する知者たちのメンタルモデルを紹介した『知の巨人たちの「考え方」を一冊で、一度に、一気に学びきる グレートメンタルモデル』よりお届けします。
地図を正しく使うには?
地図をできるだけ正確に活用するには、次の3つのポイントに注意する必要がある。
①現実は究極のアップデートである
②地図は製作者の意図を反映する
③地図は現実に影響を与えることもできる
ポイント①現実は「究極のアップデート」と知る
知らない場所を初めて訪れるときは、地図を手元に用意しておくと便利だ。行ったことのない街へ出かけたり初めて親になったりするなど、あらゆることにおいて地図やガイドが役に立つ。
だが、地形は地図や図法の更新が追いつかないくらい速く変化することもある。私たちは自分の経験に基づいて地図を更新していかなければならないし、それが可能だ。優れた地図の作成方法とは、探検家が地形を調べ、発見した内容をフィードバックしていくようなやり方だ。
固定観念は地図と考えることができる。それには便利な面もあって、人間は毎日大量の情報を処理する必要があるため、固定観念のように内容が単純化された形なら情報を効率的に処理できるのだ。
気をつけなければいけないのは、地形が実際にはもっと複雑であることを忘れた場合だ。人間は固定観念が表すことができるよりもはるかに複雑な存在だ。
1900年代初頭、ヨーロッパ人はパレスチナ全土で写真を撮り、多様な民族の社会と文化を反映することを目指した記録を残したが、カリーマ・アッブド[パレスチナ・プロ写真家]は独自の視点で自分が属する社会の文化を表現した。
アッブドは家族や友人など身近な人の写真を撮り始め、パレスチナに自分の写真スタジオを設立した最初のアラブ人女性となった。彼女の写真は、パレスチナ地域を独自の視点で切りとっている。
アッブドはヨーロッパ人の撮影スタイルとは異なり、中産階級のありのままの姿を撮ろうとした。あらかじめ考えられたシナリオに沿うような写真を撮るのではなく、自分が見たままの世界をカメラで記録しようとしたのだ。
アッブドの気取らない表現と、風景から私的な肖像写真まで、身近にある多様な景色を写真に撮りたいという思いは、作品そのものをはるかに超えた遺産を後世に残した。彼女はパレスチナ地域の歴史を理解するのに役立つ独自の視点、新しい地図を築き上げた。
ただし、地図はある特定の時点における地形をもとにしていることを覚えておく必要がある。過去の地形を描写していたという理由だけで、現在の地形や将来の姿もきちんと反映している保証はない。
地形の変化するスピードが速いほど、地図を最新の状態に保つのは難しくなる。
ポイント②「製作者の意図」に気づく
地図は地図製作者が作るもので、純粋に客観的なものではない。地図においては歪みや誇張・省略といった、製作者の意図や価値観、政治や社会などに関するさまざまな基準が反映されている。
このことは世界地図上に引かれた国境の変化にも表れている。国家は政治的、文化的要因から新しく生まれることもあれば終わりを迎えることもある。
現在の世界地図を見ると、私たちは国境が「国家を構成する人々が共通したアイデンティティを有している」ことの反映だと考え、社会と国家を結びつけてとらえる傾向がある。
しかし、歴史家のマーガレット・マクミランが指摘しているように、ナショナリズム(国家主義)は非常に近代的な概念であり、国家の形を示す地図の発達とともに発展してきた。そうであるなら、地図が地理と地形の客観的な姿を描いたものだと考えるべきではない。
たとえば、現在のシリア、ヨルダン、イラクの国境線は、第一次世界大戦後に中東での影響力を維持しようとイギリスとフランスが画策したことの反映だと歴史家は示している。この3国の国境は、現地に住む人の慣習や社会を反映したものというより、西洋人の利害関係が形になった地図なのだ。
このことからわかるように、モデルはそれが作成された経緯や文脈の中で理解したときにもっとも役に立つ。
地図の製作者は何を意図していたのか、それが実際の地図にどう影響したのかを常に考えることが大切だ。
ポイント③地図の「現実への影響」を意識する
この命題は、都市研究家のジェイン・ジェイコブズが画期的な著作『アメリカ大都市の死と生』で提起したいくつかの論点の中心となるものだった。
ジェイコブズは、都市の実際の機能を考慮せずに都市設計と利用計画の精巧なモデルを作りあげていく都市計画担当者たちの手法を同書で明らかにしている。
担当者たちはそうやってできたモデルで都市を作り替えようとした。
ジェイコブズはこうしたやり方によるネガティブな結果についてこう書いている。
「これによって大都市統計地域[中核となる都市の人口密度が相対的に高く、地域全体が緊密な経済的関連を持っている地理的地域]の都市計画を作ることも可能になった。しかし、人々はそのことをより真剣に懸念している。なぜなら地図と現実は必ずしも結びついていないし、地図に合うように現実のほうを変更することもできてしまうのだと私たちは知っているからだ」
ジェイコブズの本はある意味、モデルを強く信じることが都市と地形のあり方に関する人々の意思決定にどんな影響を与えうるか、複雑なものごとを単純化しようとするとどうなるのかについて警鐘を鳴らしている。
結論──地図の「背後」に目を向ける
地図は長い間、人間社会の一部だった。地図は知識を伝えるための重要な道具だ。
それでも、地図や抽象概念、モデルを使う場合には、それらの限界にも常に注意を払う必要がある。
こうしたものは当然ながら、もっとはるかに複雑なものごとを単純化したものだ。主観的な要素がどうしても含まれるし、それが生まれた時代背景を反映したものだということを理解する必要がある。
これは、地図やモデルを使うことができないという意味ではない。
モデルを使うことで、世界の姿をシンプルに理解しやすくなる。あらゆる地形を自分で調べることはできない。
地図を絶対に正しいと思い込み、新しい地形を発見したり、既存の地図の情報をアップデートしたりする妨げにならないように注意しよう。地図はあくまでもガイドとして頼るものだ。
何にも頼らず自分の力だけで生きていくのは目標として立派だが、常にうまくいくとは限らない。地図とモデルは、私たちが身の回りの世界を理解し、関わるのに役に立つ。欠陥もあるが、便利な道具だ。
常に数歩先のことを考えるためには、地図の背後にあるものに目を向ける必要がある。
<本稿は『知の巨人たちの「考え方」を一冊で、一度に、一気に学びきる グレートメンタルモデル』(サンマーク出版)から一部抜粋して再構成したものです>
(編集:サンマーク出版 Sunmark Web編集部)
Photo by Shutterstock
【著者】
シェーン・パリッシュ(Shane Parrish)
リアノン・ボービアン(Rhiannon Beaubien)
【訳者】
北川 蒼(きたがわ・そう)
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