銀行に預金だけしている人に『そろそろ投資をはじめたい。」を読んでほしい理由
調達コンサルタントとして活動し、テレビ、ラジオなど数々の番組に出演、企業での講演も行っている坂口孝則さんはさまざまなジャンルにまたがって毎月30冊以上の本を読む読書家。その坂口さんによる『そろそろ投資をはじめたい。』(著:渡部清二、サンマーク出版)のブックレビューをお届けします。
そろそろ投資をはじめてみる? いや、もうはじめているんじゃない?
「持ち家でも、借家でも同じだよ」
よく言われることだが、私は若い頃、これがなぜ同じなのかどうしてもわからなかった。ただ「持ち家か借家か、迷うくらいの優柔不断な人間だったら、借家がいい」とも思ったため、私はずっと借家暮らしだ。
ところで、30歳をこえて知人らと会社を経営するようになって、やっと「持ち家でも、借家でも同じだよ」という言葉の意味がやっとわかってきた。つまり、これは、こういうことだ。
・家を建てるために3000万円を借りる。そして、それまで月に10万円ほどかかっていた家賃がなくなる。ただし借金の3000万円に対する支払いが生じる
・株式投資か不動産投資信託(REIT)のために3000万円を借りる。そうすると、月に10万円くらいの収益金が入ってくる。その10万円で家賃を払うなり遊ぶなりすればいい。ただし借金の3000万円に対する支払いが生じる
この二つは「等価」だ。異なるものが同じ価値や効果を持つという等価の意味が、なかなか会社を経営する前は実感を伴わなかった。というのも、家を建てるのが住宅ローンという名の特別な借金のであり、それ以外の借金は想像の範囲外だからだ。
しかし不思議なことに「株はギャンブルだ、投資信託もギャンブルだ」といっているひとも、将来に下落するかもしれない自宅には借金を厭わない。私が「家を建てるために3000万円を借りる」と書いたあとに「株式投資か不動産投資信託(REIT)を購入するために3000万円を借りる」と書いたが、この二つが等価に感じられない人がいるだろう。
だって、家を借りるために3000万円は借りられるけれど、投資のために3000万円は借りられないよ……と。もしかすると、そう感想をもってしまう人は、かつての私と同じく、「(なぜだか家を借りる借金以外の)借金はダメ病」にかかっているのだと思う。しかし、考えてみれば、じゅうぶんに成熟した市場であればきっと、その二つはさほど変わらないリターンになるだろう。
別に借金に限らない。みなさんが豊富なお金をもっていたとして、それをいかに分配するか、と考えてもおなじだ。
3000万円を持っていたとしよう。それを銀行に預けることもできるし、あるいは、暗号資産にも、投資信託にも、個別株式にも預けることができる。あるいは、その3000万円を自己投資として海外留学とか、高性能PCにも、遊びにも占いにも、あるいは怪しげな自己啓発とかにも費やすことができる。私たちは、意識的か無意識かは別に、すでに投資家活動を行っている。
投資の重要性
『会社四季報』を読破するという渡部清二さんの著書『そろそろ投資をはじめたい。』(サンマーク出版)はきわめて面白いから、投資初心者だけではなく、投資中級者まで読んだほうがいい。きわめてまっとうな投資推薦本である。
まず普通の会社員からすると、まずは給料を稼いでお金を増やすためには、次の三つがメインだろう。
1. 自分に投資する
2. 銀行に預金する(あるいはゆうちょ銀行に貯金)
3. 株式や投資信託に投資する
私の実感でいえば、若い頃に100万円を105万円にするために必死に金融商品を学ぶよりも、その100万円をひたすら自分に投資しさまざまなことを学んだり経験したりしたほうが、100万円どころか将来には1000万円とか1億円になるだろう。銀行に預金しても、この低金利時代ではほとんど増えない。
ただし、若いときならまだしも、歳を取ってから現金や自宅以外の資産がゼロなのもリスクがある。やはり株式や投資信託に投資するのは重要だと思う。私も若い頃から、自己投資で余った資金を投資信託に積み上げてきたが、資産形成においてかなりこの投資分が寄与してくれている。とくに早いうちに投資した分は大きく増えている。
たとえば、みなさんの親御さんが50年前にS&P500などに1000万円を投資してくれていたらどうなっていただろう(なお、当時はインデックスを購入するのが難しかっただろうから、ほんとうにS&P500かは別として主要米国株を買い替え続けていたらという意味だ)。みなさんは多額を相続することになっただろう。
前節で私が説明したように、すでに私たちは投資を開始している。そして、「3. 株式や投資信託に投資する」であっても、日常のささやかな風景のなかにこそ成功の秘訣がある、と本書『そろそろ投資をはじめたい。』は教えてくれる。では、その"風景のなか"とはどういう意味だろうか。
好奇心と気づく力を養おう
本書はつねに「考える」重要さを教えてくれる。たとえば、「アジアの街中。人びとがバイク(ノーヘル)でごった返す」写真を見たらどう思うか。人びとはこれからヘルメットを買うようになる→ヘルメットメーカーの株が伸びるに違いない、と思えるか。
また、東京ディズニーランドやマクドナルドの新聞記事を見たり行ったりしたときに、人が溢れているのを確認したときどう思うか。あれだけ値上げを繰り返しているのに、人びとから愛され続けているのはすごい→これらの株はこれからも堅調に違いない、と思えるか。他人と"見ている"ものは同じ。でも"見えている"ものは違う。これは一朝一夕で身につくものではないかもしれない。
本書は決算書から企業の健全性や将来性を見極めるノウハウがふんだんに盛り込まれている。投資初心者は読んでおくといいだろう。また、企業の現金の流れ(収入と支出)であるキャッシュフローの仕組みの説明もわかりやすい。しかし、私はそれよりも、著者の"そもそも論"としての金融商品との対峙法が興味深かった。
市場はなんでも知っている
ところでみなさんは、1986年、スペースシャトルのチャレンジャー号が発射直後に爆発した悲しい事件を覚えているだろうか。この事故は、天才物理学者のリチャード・ファインマンがかなりの時間をかけて、Oリングが原因であることを突き止めた。固体燃料補助ロケットの接合部を密閉するためのゴム製シールのことだ。
しかし、とても奇妙だったのは、天才物理学者の判断を待つことなく、株式市場が事故直後から答えを知っていたのだ。というのも、事故の直後、はじめのころはチャレンジャー号に関わった企業の株価は一斉に下がったが、やがて復活。しかし、そのOリングを生産している企業の株価だけは下落し続けた。
なぜだかはわからない。しかし、市場は答えを知っていた。それに参加した一人ひとりはもちろん答えを知らなかった。ただ集合知としての市場は正しい判断をすぐさま下したのだ。著者は「株式市場の評価はいつだって公正」という。
非常に明確だ。同書はタイトルが『そろそろ投資をはじめたい。』である。株式市場を見ることは、世界を見ることにほかならない。自分の半径数メートルの生活から脱却して、広い世界に飛び込むこと。そうしたら面白いぞ、お金も増えるかもしれないし――。
これが結局のところ著者の主張なんじゃないだろうか。そして私も引き続きその世界に飛び込んで七転八倒しながらも楽しんでいきたいと思うのだ。
(編集:サンマーク出版 Sunmark Web編集部)
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坂口孝則/調達コンサルタント
大学卒業後、メーカーの調達部門に配属される。調達・購買、原価企画を担当。バイヤーとして担当したのは200社以上。コスト削減、原価、仕入れ等の専門家としてテレビ、ラジオ等でも活躍。企業での講演も行う。
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