見出し画像

ロボットに怯える人間の歴史が意外に短くないという事実

 スマートフォンを操作し、家電を遠隔操作し、AIスピーカーに話しかける。そんな暮らしが当たり前になった今、私たちはすでにロボットと共生していると言えるでしょう。

 一方で、AIやロボットに人間はさまざまな脅威を感じています。「シンギュラリティ」という言葉がささやかれるようになった最近だけではありません。実は100年も前からの話なのです。『アッと驚く英語の語源』よりお届けします。

『アッと驚く英語の語源』(サンマーク出版) 書影
『アッと驚く英語の語源』

robot/チェコ語の苦役

 robotを英和辞典で引いてみると、まず「ロボット、人造人間」とあり、続いて「他人の意志のままに動く人」「型にはまった行動をする人」「仕事は正確でも他人の感情の機微がわからない人」という否定的な意味が続きます。

 ですが何と言っても、ロボットは人類にとって未来への夢と希望の象徴です。私のような古い世代にとっては「鉄腕アトム」や「鉄人28号」、若い人にとってはAI(Artificial Intelligence)「人工知能」が搭載された二足歩行型の「アシモ」や人と会話ができる「ペッパー」、犬型の愛玩ロボット「アイボ」などがお馴染みでしょう。

 人間や犬の形はしていませんが、多くの工場ではロボットが黙々と稼働しています。最近では「ルンバ」など円盤型のロボット掃除機も人気です。空を飛んで商品を配達するドローンも自動運転の車も少しすれば実用化されるかもしれません。これらもAIを搭載したロボットの一種です。でも、それに対応する法整備がうまく進むのでしょうか? 何か人間の知恵がロボットに試されているような気さえしてきます。

 このrobot「ロボット」という単語は、1920年にチェコの小説家Karel Capek「カレル・チャペック」(1890-1938)が発表した"R.U.R." (Rossum's Universal Robots)「ロッサム万能ロボット商会」という戯曲で初めて登場しました。翌年、ロンドンでこの芝居が上演されると大評判となり、チェコ語で「苦役」「強制労働」を意味するrobota「ロボタ」から生まれたrobotという造語が世界中に広まることになります。

100年も前に描かれていたロボット反乱の物語

 劇中では、この会社が開発した"人造人間"は世界中に輸出されて、人に代わって多くの労働に使われるようになります。人間は働かなくても生きていけるようになったのです。でも、そのために本来持っていた能力の多くを失い、最後には全世界で子供がひとりも生まれなくなってしまいます。

 一方で、いろいろな知識と能力を身につけたロボットが反乱を起こし、人間を皆殺しにして世界はロボットが支配するようになる...という、そんなストーリーです。この戯曲本は、日本でも1923(大正12)年に『人造人間』(宇賀伊津緒訳)というタイトルで発行されています。

 最近「シンギュラリティ」という言葉をよく聞くようになりました。英語にすればsingularity、「技術的特異点」と訳されます。「AIが人間の知能を超える転換点」のことです。人工知能研究の世界的権威で、アメリカ屈指の発明家であり未来学者でもあるレイ・カーツワイル博士が提唱した概念で、AIが人の手を借りずに自ら学習を行うことで超高度化し、人類に代わって地球上の文明を発展させるようになる時点のことを言います。2045年頃にその時が到来するのではないかと予想されています。

 100年も前にロボットの人間への反逆のドラマを描いたチャペックは、シンギュラリティが現実味を帯びる現在をどう見るのでしょう?

<本稿は『アッと驚く英語の語源』(サンマーク出版)から一部抜粋して再構成したものです>

(編集:サンマーク出版 SUNMARK WEB編集部)
Photo by shutterstock

【著者】
小泉牧夫(こいずみ・まきお)
英語表現研究家、英語書籍・雑誌編集者

◎関連記事

【参加募集中】サンマーク出版が運営する、本の未来を創造する異業種横断コミュニティBook Lover LABOの詳細はこちら。出版社・書店・著者・読者が集い、本の可能性を広げる仲間と出会いませんか?