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4歳児のかんしゃく、親がカッとする前に考えてほしいこと

 子どもが「悪いことをした」「ぐずった」。そんなとき、親としてはどう対応していいか頭を抱えてしまいます。どのような態度で何をどう言えばベストなのでしょうか。

 アメリカ・ブラウン大学経済学部のエミリー・オスター教授が経済学者として膨大なデータにあたり、そこから得た知見と、自身の子育て経験を交え、全てに科学的根拠を求めた『米国最強経済学者にして2児の母が読み解く子どもの育て方ベスト』は、「子どもは悪さで親を試しており、親が怒りをコントロールするのが子育てには大事だ」と指摘します。

『米国最強経済学者にして2児の母が読み解く子どもの育て方ベスト』(サンマーク出版) 書影
『米国最強経済学者にして2児の母が読み解く子どもの育て方ベスト』

親のしつけに逆らった弟

 私が幼い頃に悪いことをすると、母の対応は「階段に座って考えなさい」と言うものだった。私は階段までよちよち歩いて行き、しばらく座って悪かったことを考えてから、戻って何が悪かったのかを説明し、もうしませんと言うのだった。

 母は、自分が子どもと深く通じあい、ほかの人たちがよくやっていた「お部屋にいなさい!」式のしつけをする必要のない、素晴らしい親であることに満足していた。

 やがて、弟のスティーヴが生まれた。

 弟は、階段に座って自分の悪いことを考える気はなかった。むしろ、大声で拒否した。事態はエスカレートして、弟は部屋に行きなさいと言われた。それも拒否した。母は実力行使で弟を部屋に引きずっていき、ドアを閉め、弟が金切り声を上げて出ようとしても、ありったけの力でドアを押さえつけ、ふんばっていた。

子どもは「悪さ」で試している

 ここでも、子育ては親の問題というより、子どもの問題だということがわかるだろう。

 私の2人の子どもが生まれたときも、同じパターンが繰り返された。ペネロピはかんしゃくを起こしたことがなかった。フィンがやってみせたときは信じられなかった。絶叫が止まらない! 私は夫のジェシーに「病気じゃない? お医者様に連れていったほうがよくない?」と尋ねた。ジェシーは私の顔をまじまじと見て、頭がおかしいのかと言いたげだった。

「病気なんかじゃないよ。2歳なんだ」

 かんしゃくは、トドラーの感情が行動に出る一番極端な形だ。

 ほとんど誰にでも経験がある。たいていは、公共の場でのことだ。友人のジェンナは、4歳のときにケイマートでかんしゃくを起こしたことを母親がいまだに根に持っていると言った。私の甥は、混雑したショッピングモールで床にひっくり返って泣き叫んでいる間に、母親がどんどん歩いていってしまい(正しい反応だ)、通りがかった人たちが手を貸そうとしてくれた。

 もちろん、子どもが一度かんしゃくを起こすと、どうにも助けようがない。

 トドラーは別の方法でも感情を行動に表す。まるで科学者のように、可能なことを実験しているのだ。

 「ママにこのカリフラワーの茎を投げつけて、『これキライ!』と叫んだら、どうなるかな?」

 「妹の頭を本でぶったら、やり返してくるかな? 大人が止めてくれるかな?」

 絶え間ない実験に親は疲れ果て、混乱することもある。子どもの身体を押さえきれないほどになるとお手上げだ。

 たとえば、息子が博物館で何度言ってもシャツを脱ぐのをやめないとき、あなたならどうするだろうか。無理やりシャツを着せるだろうか。あきらめて、シャツなしで走り回らせておくか(そもそもなぜシャツを脱ぎたがるのだろう。朝、そのシャツを絶対に着るんだと言い張っていたくせに)。

「目的」をもってしつける

 多少の安心材料は、しつけに関しては、エビデンスに基づくアプローチが存在していることだ。

 「多少の」と言ったのは、かんしゃくを完全にやめさせて、2歳児を7歳児に変身させるような、失敗のない方法はないからだ。代わりに、悪い行動をしたときの対処と、再発防止を中心とした親の介入方法がある。

 エビデンスを説明する前に、立ち止まってなぜ子どもをしつけたいのかを考えてみよう。何を達成したいのか。

 答えは、ほかの子育ての選択で目指していることと同じだ。幸せになり、人柄がよく、成果を出せる大人に育てようとしているのだ。子どもが片づけを拒否して、私が叱るのは、何も片づけを手伝ってほしいからではない。子どもにさせるより、自分で片づけたほうがよっぽど早い。自分が散らかしたことに責任を持って対処できる人になるよう、教えているのだ。

 今散らかしたレゴだけでなく、将来の自分が起こしてしまう、避けようのないトラブルも同じだ。

 これは、フランス流育児で信奉されている、教育としてのしつけ哲学だ(『フランスの子どもは夜泣きをしない──パリ発「子育て」の秘密』に感謝)。

 しつけは罰を与えることではない。確かに、罰の要素はあるが、罰が目的ではなく、よりよい人間に育てるためにある。

 これを足場に、データを見よう。エビデンスに基づく子育て支援プログラムは数多くある。「1・2・3マジック」「インクレディブル・イヤーズ」「トリプルP 前向き子育てプログラム」などだ。多くの学校(深刻な問題行動を起こす子どもが通う学校を含む)でも、「問題行動へのポジティブな介入と支援」プログラムを実施している。どれも目標と構成は似ている。

子どもは「怒っている理由」を説明できない

 おおむね、どのプログラムでも強調されている重要なポイントがある。

 まず、子どもは大人ではなく、子どもに話して聞かせても行動を改善することはまずできないと認識することだ。

 4歳児は、博物館でシャツを脱いだときに、公共の場ではシャツを着ているものだと理屈で説明しても応じない。裏を返せば、子どもに大人の理屈が通用すると期待してはいけない。したがって、たとえば夫が博物館でシャツを脱ぎ出し、それがいけない理由を説明してもやめなかったら、あなたは怒るだろうが、子どもには同じように怒ってはいけないのだ。

 どのプログラムも、怒ってはいけないと強調している。どならない、怒りをエスカレートさせない、そして絶対に叩いてはいけない。

 親が怒りをコントロールすることが、子育てプログラムの最初のポイントだ。

 言うのは簡単だが、これが本当に難しい場面はたくさんある。練習が必要だ。どの親も怒りたくはないが、いろいろな瞬間についカッとなる経験は誰にでもある。

 トドラーのしつけは、実は親のしつけなのだ。ひと呼吸おこう。いつだったか私は子どもたちにこう言ったことがある。「ママは今すごく怒っているの。しばらくトイレで気持ちを落ち着かせてくる」(トイレだけが鍵のかかる場所だったから)。実際にそうして、子どもだけでなく、自分もコントロールできると思えるまで、出てこなかった。

 この「子どもは大人ではない」論を発展させれば、小さな子どもがかんしゃくを起こしているときには、その理由をあれこれ考えるのは時間の無駄だといえるだろう。

 どうしてこんなに怒っているのだろうと突き詰めたくなる誘惑は強い。子どもに何が問題なのかをきちんと言わせようとしてしまう。話せるようになった子どもでも、それはできないだろう。たぶん、わからないからだ。

 かんしゃくはどんな理由でも起きる。しつけによって、かんしゃくという行動をさせないようにするのが目標だ。子どもは、かんしゃくで自分の問題を伝えられないと気づけば、別の、もっと生産的な方法で伝えようと頭を使うことができる。

「アメとムチ」を一貫して使い続ける

 第2のポイントは、明快な「アメとムチ」のシステムを作り、そのルールに常時一貫して従うことだ。

 たとえば、1・2・3マジックでは、問題行動があれば1回目、2回目、とカウントする。3回目をカウントしたら、決められた結果(5分間、自室などでじっとさせるタイムアウトや、おもちゃを取り上げるなど)が待っている仕組みだ。

 最後のポイントは、「一貫性」だ。どのプログラムを採用するにせよ、一貫して使い続けることだ。3回カウントでタイムアウトと決めたら、例外なくタイムアウトにする。たとえスーパーにいてもだ(『1・2・3マジック』の本では、店の隅に行かせるか、「タイムアウトマット」を持参してそこにいさせることを提案している)。

 その延長で、親は何かをダメと言ったら、それを通さないといけない。デザートを食べたがる子どもに一旦ダメと言ったら、いくらぐずっても折れてはいけない。いいわよと言ってしまったら、そこから子どもは何を学ぶのだろうか。「ぐずればうまくいく。またやろう!」となるだろう。

 同様に、実行できない脅しはしてはいけない。

 たとえば飛行機で、子どもが前の座席を蹴り続けたとしよう。「次にやったら、飛行機に置いていくから」と言うのはいい脅しではない。そんなことはしないからだ。試しにまた蹴ってみて、置き去りにされないとわかったら、子どもは覚えておくだろう。

 車で旅行中に親がよく言う脅しも同じだ。「きょうだいげんかをやめないと、車で引き返すよ!」と言うのなら、本当に引き返す覚悟をしておいたほうがいい。

<本稿は『米国最強経済学者にして2児の母が読み解く子どもの育て方ベスト』(サンマーク出版)から一部抜粋して再構成したものです>

(編集:サンマーク出版 SUNMARK WEB編集部)
Photo by Shutterstock


【著者】
エミリー・オスター(Emily Oster)
米アイビーリーグの名門校、ブラウン大学経済学部教授
【訳者】
堀内久美子(ほりうち・くみこ)

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