
感じのいい人からモノを買う前に考えてみてほしいこと
商品やサービスを売っている人に「好感」を持つかどうかが、私たちの購買行動に影響することがあります。逆に売れる人ほど、この心理を知ってか知らずか活用しています。ただ、商品やサービスの価値判断を売り手の好感に委ねるのも考えもの。
『Think right 誤った先入観を捨て、よりよい選択をするための思考法』より、「『あなたが好き』のワナ」の解説をお届けします。

よりよい選択をするための思考法』
伝説的セールスマンが送る「あいさつ状」の内容とは?
ケヴィンはボルドー産の極上ワイン、シャトー・マルゴーを2ケース買った。
彼はめったにワインを飲まない──ましてやボルドーワインはまったく飲まない。彼は、店員の女性がとても感じがいいと思った。女っぽいとか刺激的だったというわけではないが、とにかく彼女に好感をもったのだ。だからワインを買ってしまった。
世界でもっとも偉大な自動車セールスマンとして知られている、ジョー・ジラード。彼の成功の秘訣は、ずばり、こうだ。「自分がその客のことを大好きだと客に信じこませることほどいい方法はない」
ジラードの必殺テクニックは、かつての客も含めたすべての得意先に、毎月、「あいさつ状」を送ることだ。そこにはたった一言、こう書かれているだけだった。「あなたが好きです」
「あなたが好き」のワナは、誰にでもすぐに見透かされる落とし穴だ。それなのに、わたしたちはくり返しそのワナにかかってしまう。
この落とし穴は、誰かのことを「感じがいい」と思えば思うほど、その人から商品を買ってしまったり、その人を助けてあげようという気になってしまったりする傾向を言う。

誰かに「好感」を抱くときの3つの要因
さて、「感じがいい」とはどういうことなのか? 実験により、他人に好感を覚えるときのいくつかの要因が明らかになった。
「他人に好感を覚えるとき」の要因とは、以下の通りだ。
①外見が魅力的。
②出身、人間性、関心が向いている方向が自分と似ている。
③相手が自分に好意を抱いてくれている。
この3つである。順を追って説明していこう。
テレビコマーシャルは魅力的な人たちであふれかえっている。醜い人は心地よい印象を与えないため、広告の担い手としてはふさわしくないのだ(①のケース)。
外見がとても魅力的な人と並んで、"あなたやわたしのような"普通の人もコマーシャルに登場する(②のケース)。外見や話す言葉、生活の背景が見ている側と似ている人だ。人間は、自分に似ていれば似ているほど、相手を好ましく感じる。
それから、コマーシャルではお世辞や褒め言葉を並べることも珍しくない──「あなたにふさわしい」というような言葉だ。このときに③が効果を発揮する。
わたしたちは、「自分のことを好ましく思っている」という信号を送ってくれた人に対して好感をもつ傾向がある。
そう、「褒め言葉」には奇跡を起こす効果があるのだ。たとえ、その言葉がまったくの嘘であったとしても。
「ミラーリング」とは、好意をよせている相手のしぐさを無意識のうちに真似てしまうという心理学の効果のことだが、この効果はセールスのテクニックとして利用されている。
営業マンが、顧客のしぐさや話し方を真似るのだ。相手がゆっくり静かに話したり、額をたびたび掻いたりすると、同じようにゆっくり静かに話し、ときどき額を掻くと効果がある。顧客の目には目の前の営業マンが好意的に映り、それによって契約が成立する可能性が高まる。

売り手の人柄で商品の価値を判断してはいけない
友人を通して売買をするマルチ商法は「あなたが好き」のワナだけで成り立っている。同じような密封容器がスーパーマーケットでは4分の1の価格で買えるのに、タッパーウェアの年間売上げは20億ドルにのぼるという。
どうしてか? タッパーウェア・パーティーを開く友人が、好感を与える条件を完璧に満たしているからだ。
自然保護団体も「あなたが好き」のワナを利用している。世界自然保護基金(WWF)のポスターの写真に、クモやミミズや海藻や細菌が使われているのを見たことがあるだろうか?
おそらくそれらの生物も、パンダやゴリラやコアラやアザラシと同じくらい絶滅の危機に瀕している。生態系にとってはむしろ、パンダやゴリラよりも重要でさえある。
だが、わたしたちはクモやミミズや海藻や細菌などに対しては、親しみを感じない。「人間と似たような目をした動物」のほうに、より大きな親しみがわくのである。名前も形もわからない生物が絶滅しても、仕方ない程度にしか感じないのだ。
政治家は「あなたが好き」のワナの鍵盤の上を走り回り、みごとな演奏を披露する。聴衆に合わせてさまざまな共通点を見つけ出し、力説する。あるときは居住地区のことを、あるときは社会的な出身について、またあるときは経済的な関心に重点を置く。
わたしたちはそれを聞いて、決して悪い気がしない。ひとりひとりが必要とされているような気分にさせられるのだ。
「尊き1票を!」。もちろん、個々の票には価値がある。しかし、それは非常にわずかな価値である。
オイルポンプの営業をしている友人が、ロシアでのパイプライン設置事業で何十億円という契約が成立したときの様子を話してくれた。
「賄賂を渡したのか?」とたずねたわたしに、彼は首を横に振った。
「雑談をしていたら、急にヨットの話になったんだ。そうしたら、客もぼくも470級の小型ヨットの大ファンだとわかったんだ。その瞬間から、ぼくらは友人さ。それで、取引が決まったのさ。共感し合うほうが、賄賂を渡すよりもうまくいくよ」
結論。ものを買うときは、売り手の人柄で商品の価値を判断しないようにしよう。売り手のことは、存在しないと考えるか、さらにいいのは、その人は感じの悪い人と考えることだ。
<本稿は『Think right 誤った先入観を捨て、よりよい選択をするための思考法』サンマーク出版)から一部抜粋して再構成したものです>
(編集:サンマーク出版 SUNMARK WEB編集部)
Photo by shutterstock
【著者】
ロルフ・ドベリ
作家、実業家
【訳者】
中村智子(なかむら・ともこ)
◎関連記事
