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本音を言わなければ相手は相手の視点でしか物事を見られない

 離婚寸前の危機に陥っている夫婦。お互いに本音を隠したままでは問題は解決しません。

 離婚相談を1万件以上受けてきた九州第1号の女性弁護士・湯川久子さんのロングセラー『ほどよく距離を置きなさい』よりお届けします。

『ほどよく距離を置きなさい』 サンマーク出版
『ほどよく距離を置きなさい』

人は一番の本音を言わずに、二番目を言いたくなる生き物

 女友だちとお茶をしていたら、夫の浮気を相談され、悩む友人におおいに同情して一緒になってその夫をけなしていると、いつの間にか「あなたにウチのことなどわかるはずがない」と、文句を言われる。逆に「あなたも少しご主人のことを考えてみたら」と言おうものなら、ものすごい形相で夫がいかに悪いのかを証明しようとする。こういった経験は、誰にでもあるのではないでしょうか。

 この場合、妻の本音は「夫を心から愛している。浮気をやめてほしい」ということであって、離婚相談ではありません。

 長年、離婚事件に携わっていると、表からはわからない男女の仲に出くわすことがたびたびあります。

 夫は、ハンサムでいい男。次から次へと女性をつくっては捨て、捨ててはつくって数人目。妻はついに夫に堪忍袋の緒が切れ「離婚してほしい」と言い出しました。夫はというと、請求した慰謝料の金額を見て目玉が飛び出たからか、「絶対離婚はしない」と言うばかり。調停はまとまらずに、裁判となり、そろそろ判決が出ようかというころに、突然夫が妻の実家へ迎えにやってきて、妻は夫のもとへと帰ったというのです。

思いを内に閉じ込めることにいいことなんて一つもない

 そう、妻はまだ夫を愛していて、心の奥ではとっくに夫のことをゆるし、離婚を踏みとどまっていたのです。骨折り損のくたびれもうけだったかどうかは別として、まだ若かった私は、後処理を行いながら、内心祝福したのを覚えています。

 人は、一番の本音を言わず、二番目を言う。そんなふうに思うことがあります。一番の望み、一番の思いを口に出すと、それがもし否定され、受け入れられなかったときのことを考えると怖くて仕方がないからかもしれません。

 だから、思ってはいるけれども一番ではない、ということから小出しにしたり、他の要望を伝えることで一番の望みを叶えようとしたりします。

 だから「愛しているから戻ってきて」と言えない夫や妻の要望が、「一千万円払うなら離婚してあげる」「親権は絶対に渡さないぞ」になるのでしょう。

 愛している、戻ってきて。そう言えない女性の姿に、人の心の機微に触れる思いがします。人間っていじらしいなぁと感じるわけですが、本音を言わずにいれば、相手は相手の視点でしか物事を見ることができません。

 最後の最後に「本当はこう思っていた」と伝えたときには、相当な遠回りをしたことに気づくこともあるでしょう。

 やっぱり、思っていることを内に閉じ込めてしまうことに、いいことなんて一つもないのです。

本音を伝えることが、
問題解決の第一歩

――いい年した大人が、
誰に遠慮をしているの?

<本稿は『ほどよく距離を置きなさい』(サンマーク出版)から一部抜粋して再構成したものです>

(編集:サンマーク出版 Sunmark Web編集部)
Photo by Shutterstock


【著者】
湯川久子(ゆかわ・ひさこ)

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