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自分第一のリーダーと人に尽くすリーダーの間にある圧倒的な信頼の差

 リーダーとは、権力を求める存在なのか、それとも奉仕する存在なのか――。

 世界中で「自分ファースト」型のリーダーが批判を浴びる今、他者への奉仕から始まり、結果としてリーダーとなる「サーバントリーダーシップ」。この古くて新しい概念が、硬直化した組織や社会を変えるチェンジメーカーを生み出すカギとなっています。

 社会起業家でありカリフォルニア大学バークレー校教員のアレックス・ブダク氏が、2600年前の老子の言葉から米軍の伝統、そして現代のアメリカ政界の改革まで、真のリーダーシップの本質を探ります。著書『自分の能力が変わるカリフォルニア大学バークレー校超人気の授業』よりお届けします。

『自分の能力が変わるカリフォルニア大学バークレー校超人気の授業』(サンマーク出版) 書影画像
『自分の能力が変わるカリフォルニア大学バークレー校超人気の授業』

「自分ファースト」型は短命に終わる

 今日の世界のリーダーに目を向けると、彼らがメディアや政治、ビジネスの世界で、あまり好ましくない、時にはかなり辛辣な言葉で表現されているのがわかる。

 たとえば、結局は自分のことを第一に考えるリーダーは、「権力欲が強い」「堕落している」といった言葉で描写されるし、CEOと従業員の賃金格差の拡大や、有権者より自分の利益を優先する政治家の傲慢さもよく批判の対象になる。

 これは、私たちが嫌というほど目にするリーダー像なのかもしれない。しかし、それはリーダーの真の姿ではない。短期的な成功は収められても(おそらくそれははかない成功だ)、自分を第一に考えるつけは必ず回ってくる。長期的に良い影響を残すチェンジメーカーにはなれないのだ。

 自分を超えるリーダーのマインドセットは、まず自分をサーバントリーダー(奉仕するリーダー)と見なすことから始まる。

賢者は控えめで口数が少ない

 サーバントリーダーシップは数千年前からある概念でありながら、急速に変化する世界でリーダーとして活躍するための現代的なアプローチでもある。

 これは目指す変革の規模や組織の大小を問わず、様々な状況で適用できる。

 2600年前の中国の思想家、老子はこう述べている。

「最高の統治者は、民に存在をほとんど気づかれない。(中略)賢者は控えめで、口数も少ない。任務が終わり、事が整ったとき、民に『私たちの力で達成した!』と思わせる状況をつくるのが良い統治者なのだ」

 米軍にもサーバントリーダーシップの考えが浸透している。それは「将校は最後に食べる」という慣習として表れている。

 米軍の食堂では、位の低いものから高いものの順に並んで列をつくる。最上級の士官が食べ始める頃には、部下はもう食事を終えている。

 これは規則ではなく、違反者に対する罰もない。だがこれは、サーバントリーダーシップの紛れもない実践例である──リーダーは、部下に先に食事を始めさせる。つまりリーダーは、自分よりも部下の利益を優先させるのだ。

人のために尽くし、結果としてリーダーになる

 ロバート・グリーンリーフは1970年に「リーダーとしてのサーバント」と題した論文の中で、「奉仕はリーダーシップの際立った特徴であるべきだ」と主張し、サーバントリーダーシップという概念を提唱した。

 グリーンリーフは、サーバントリーダーシップは「誰かに奉仕したいという純粋な気持ち」から始まり、「その結果としてリーダーになろうとする」と述べている。

 これは、私に相談に来た例の若者の考えが、いかに本末転倒だったかを表すのに役立つ。リーダーになりたいという願望ではなく、人のために尽くすことから始まり、その結果としてリーダーになることを選択する──それがサーバントリーダーシップだ。

 グリーンリーフは、自分がサーバントリーダーかどうかは、「私が奉仕している人たちは、人間として成長しているか?」と問うことでわかるとも述べる。

 リーダーが人に仕えることで、相手は人間として強く、有能になる。さらには、自らもサーバントリーダーになろうとする。

 私は部下に接するとき、「彼らが最高の仕事をするのを助けることを最優先事項とする」と自分に言い聞かせている。

 部下には、どんな問題を抱えていて、どんな支援を求めているかを尋ねる。「自分は何でも知っている」という態度を取らず、積極的に話を聞く。何が必要かを一番よく知っているのは部下だと信じ、話に耳を傾け、それから行動を起こす。

 その結果、私はあらゆる仕事をこなしている。同僚の代わりに難しい話をしたり、大きなプレゼンの準備をする部下にアドバイスをしたり、部下が会議室を予約できるよう手を貸したり。

 私は部下の成長の妨げになるかもしれないものを取り除き、彼らが成長するのを支援する。すべては、他者に奉仕するという意識的な選択から始まる。

「奉仕」が硬直した問題に効く

 自分を超えるマインドセットの目指すところがサーバントリーダーシップだとすれば、このような概念があまりにも希薄な政治の世界をどう考えるべきだろうか?

 もしあなたが「現在の政界では人材を見つける仕組みが破綻している」と思うなら、エミリー・チャーニアクもきっと合意するだろう。

 チャーニアクはボランティア団体アメリコーでの活動や、1日最大25万の人が奉仕活動に従事したことで知られる「ビー・ザ・チェンジ」の創設メンバーであるなど、サーバントリーダーシップと長く関わってきた人物だ。

 彼女は自らのメンターで、2009年にマサチューセッツ州の上院議員選挙に出馬したアラン・ハゼイから選挙キャンペーンの副本部長に任命されたのがきっかけで政界に足を踏み入れた。ハゼイは落選したが、チャーニアクは、政界の大きな問題を目の当たりにした。

 チャーニアクは「政界の人材採用システムは排他的で、革新的なリーダーが誕生しにくくなっている。現状を打破するには、システムそのものを変えるしかない」と考え、2013年、サーバントリーダー、とくに米軍や平和部隊のような国家に奉仕した経験があるリーダーの採用によってアメリカの民主主義の活性化を目的とする無党派の非営利団体「ニュー・ポリティックス」を設立した。

 同団体は、これらのサーバントリーダーは国内トップレベルの問題解決者、チェンジメーカーであり、現在のアメリカには彼らの指導力が絶対に必要だと主張している。

 ニュー・ポリティックスは、有能な政治家を見つけ出して当選させるのではなく、サーバントリーダーシップに相応しい人材を発掘することを何よりも重視する。人材の選定では、政治的信条や選挙に勝てる見込みではなく、他者に奉仕することを意識的に選択してきた献身的な経歴の持ち主であることが優先される。そして、これらのリーダーに、政治や政策についての研修を施し、当選の手助けをする。

 同団体はこのようにして、保守かリベラルかを問わず人々が議会に必要とする政治的リーダーを輩出している。すでに地方、州、国のレベルでサーバントリーダーを当選させていて、サーバントリーダーのマインドセットには既存システムに有意義な変革をもたらす力があることを証明している。

本稿は『自分の能力が変わるカリフォルニア大学バークレー校超人気の授業』(サンマーク出版)から一部抜粋して再構成したものです>

(編集:サンマーク出版 Sunmark Web編集部)
Photo by shutterstock


【著者】
アレックス・ブダク
社会起業家、カリフォルニア大学バークレー校教員

【訳者】
児島 修(こじま・おさむ)

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