「最高の人材はオールラウンダー」が本当は大嘘でしかない理由
「優秀な人材は何でもこなせる」。
多くの企業では、これが評価の基準として根付いています。人事評価では弱みの改善が求められ、社員は全領域で高い点数を目指すように促されます。
求められるのはオールラウンダー? でも、本当にそれが正しいのでしょうか?
チームの誰もが、自分の得意分野で目を輝かせる時がある。データ分析に没頭する人、議論を自然とまとめる人、新しいアイデアを生み出す人。それぞれの「強み」を存分に発揮できるとき、チームは自然と最高の結果を生み出しているんです。『NINE LIES ABOUT WORK 仕事に関する9つの嘘』よりお届けします。
「仕事に喜びを」は軟弱な詩人の妄言か?
人は一人ひとり違うから、喜びを感じる活動も当然人それぞれだが、この気持ちがどういうものかは誰でも知っている。そして、仕事にそうした喜びの要素が含まれるとき、つまり自分の仕事に愛を感じるとき、人はすばらしい仕事をするのだ。
強みを伸ばすことによって世界に貢献することにかけては右に出る者がいないスティービー・ワンダーも、こう言っている。「喜びのない仕事には誇りを感じられない。最高の仕事は、喜びに満ちた仕事なんだ」
それが仕事の働きだ。スティービー・ワンダーは作曲し、歌うとき、仕事の喜びを感じている。リオネル・メッシはDFを楽々かわし、あり得ない角度からシュートを決めるとき、仕事の歓喜を感じている。
仕事をすばらしくこなしている人、つまり仕事に愛を見つけた人を見るとき、われわれは喜びを感じる。そしてあなたにも仕事に喜びを感じてほしいと、あなたの会社は思っている。チームメンバーは創造的で、イノベーティブで、協調的で、打たれ強く、直感的で、生産的であれ、とリーダーが言うとき、その真意はこうだ。「喜びを感じられる活動や、歓喜を感じられる仕事をして勤務時間を過ごしてほしい」
不思議なことに、また残念なことに、このことはビジネスの世界で軽視されがちである。その理由はおそらく、ビジネスでは厳密性や客観性、比較優位が重視されるので、仕事での卓越性を発揮するために喜びを求めるなどという考え方は軟弱だと思われるからだろう。
足りないものを補うために粉骨砕身することこそ、ハードボイルドなビジネスの模範であって、喜びを見つけるなど詩人のやることだというのだ。
人は「これ」を毎日感じたい
だがデータはウソをつかない。
高業績チームを特徴づける8項目のうち、業種や国籍にかかわらず、チームの生産性を予測するうえでとびきり強力な判断材料(予測因子)が1つあることが、研究に次ぐ研究で明らかになっている。
その因子とは、メンバー1人ひとりの「仕事で『強みを発揮する機会』が毎日ある」という感覚だ。チームでする仕事の種類や、誰がどの部分を担当するかとは関係なく、日々の仕事で喜びを感じているメンバーが多ければ多いほど、チームの生産性も高い。
そして、この質問項目から「毎日」という言葉を取り除くと、この項目は有効性を失い、「強くそう思う」メンバーの数とチームの業績との相関関係は消えてしまう。
自分の強みが仕事に役立っているという「日常的な感覚」こそが、高業績の必須条件なのだ。
最高のチームでは、チームリーダーがメンバー1人ひとりの強みを把握し、かつ仕事で強みを発揮することを毎日求められているとメンバーに感じさせるように、各メンバーの職務と責任を調整しているように思われる。
チームリーダーにこれができているとき、ほかのすべての項目──認められているという感覚、使命感、期待の明確さなど──の高業績への寄与度が高まる。だがチームリーダーにこれができていないときは、ほかの金銭や肩書き、励まし、なだめすかしなど何をもってしても、それを埋め合わせることはできない。
仕事と強みがつねに適合していることが、高業績チームのマスターレバーである。これを引けばほかのすべてがパワーアップするし、引かなければほかのすべては力を失ってしまう。
突き抜けるほど「評点」が下がる
とはいえ、ここまでの発見には何も驚くべきことはない。
リオネル・メッシのような人が輝きを放つのを見て高揚した経験は誰にでもあるはずだ。同僚が力を発揮するのを目の当たりにして、その成功にうれしくも驚かされたり、活動に一丸となって取り組む喜びや、強みの独自の組み合わせを通じた貢献に誇りを感じたことはあるだろう。
だからこのデータも、とくに驚くようなものではないはずだ。最高のチームが、強みと職務が適合するようにつくられているのは当然だろう。世の中の経験を積んだ人にとって、ここまで見てきたことにあっと驚くような発見はないはずだ。
むしろ驚かされる(いらだたせられる、失望させられる)のは、社員が自分の強みを見つけ、発揮する手助けをすることが、会社の目的になっていないことだ。
会社のシステムやプロセス、テクノロジー、儀式、言葉遣い、哲学は、その正反対を意図してつくられている。
すなわち、標準的なモデルに照らして社員を評価し、モデルにできるだけ近づくことを求める。「最高の人材はオールラウンダーである」というウソの上に会社は成り立っているのだ。
<本稿は『NINE LIES ABOUT WORK 仕事に関する9つの嘘』(サンマーク出版)から一部抜粋して再構成したものです>
(編集:サンマーク出版 SUNMARK WEB編集部)
Photo by Shutterstock
【著者】
マーカス・バッキンガム、、アシュリー・グッドール
【訳者】
櫻井祐子(さくらい・ゆうこ)
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