ネコを外へ連れ出すと「飼い主が付いていても」怯えてしまう必然
人間はあまりにもストレス過多な環境に置かれると、精神的に参ってしまいます。それはペットも同じ。ネコは特に環境によってストレスを感じやすい生き物の一種です。飼い主としてはどのようなことに気を払ったらいいのでしょうか。
ネコ心理学者・高木佐保さんの著書『猫がゴロゴロよろこぶCDブック』からお届けします。
*前回記事「ネコにとっての「運動不足とストレス」は人間と同じく大敵だ」(7月6日配信)と併せてお読みください。
「変化」はネコの大敵
ヒトを含む動物は、基本的に安定を好みます。ネコは特にその傾向が強く、飼い主の生活の変化もストレスの要因になります。
生活の変化とは例えば、引っ越しや新しいネコの導入、知らない人の出入りが短期間で多くなることなどが考えられます。
特に神経質なネコにとっては「え!? そんなことも?」と思うようなささいな日常の変化でも、ストレスになっている可能性があります。
「イヌは飼い主につく、ネコは家につく」という言葉を聞いたことがある人もいるかもしれません。この言葉のように、ネコはいくら飼い主が側にいようと、知らない場所に連れて行かれると、大変なストレスになります。知らない場所に連れて行くと、怯えてキャリーから出てこないコもいるでしょう。
私も一度、飼いネコを親戚の家に連れて行ったのですが、1時間の車移動の間ずっと鳴き続け、着いてからも「ココハドコ? ワタシハダレ?」状態。いつものかわいい姿を親戚に見せることはできませんでした……。
新しいネコの導入も、先住ネコにとって強いストレスになります。
ネコもうつ病のような状態に
強いストレスが突然かかるとヒト同様、ネコもうつ病のような状態になり、ごはんを食べられなくなったり、動けなくなったりしてしまいます。
そのようなことがないよう、新しいネコを迎えるときは、最初は匂いだけを呈示し、その匂いに慣れさせてから対面させるといった工夫が必要です。変化を緩やかにして、新しい刺激(新入りネコ)に対して徐々に慣れさせることが大切です。
これは「ネコらしいな」と思いますが、普段使っているお皿が変わっただけで、ごはんを食べなくなるネコもいます。ヒトだとお皿の種類はほぼ気にしませんよね。
私の行った実験で、ネコにお皿からごはんを食べてもらう実験があったのですが、大好物をお皿にのせても、「いつも使ってるお皿じゃない!」と拒否されることがとても多かったんです(笑)。ネコは本当にこだわりが強いですね。
あまりにやることがなさすぎるのもストレス
それでは、「徹底的に生活から変化をなくせばいいのか」というと、そうでもありません。
これは意外に感じられる方もいるかもしれませんが、動物福祉の観点から、あまりにもやることがなさすぎるのもストレスだといわれています。
たしかにヒトでも、何もない部屋に入れられて、決まった時間に食事が与えられるような生活がノーストレスかというと、それはそれでストレスを感じ、心身に不調が生じそうです。
「感覚遮断実験」という、ヒトを対象とした心理学の実験があります。
何もない部屋に横になって、音も視覚も遮断され、情報が何一つ入らないようにすると、ヒトにどんな影響が出るのかを調べた実験です。
一見、ノーストレス状態のようにも思えますが、そのような情報がまったく入らない状況は、集中力や思考力の低下などの精神的な異常を引き起こしてしまうことがわかりました。ストレス因子になるような刺激がまったくないからといって、ストレスなく健康に過ごせるわけではないのですね。
閑静な住宅街で飼育されていて、1匹飼いで留守番が多いネコの場合、もしかするとこの実験状況に近くなってしまう可能性はあります。外部からの刺激が少なすぎても、体調を崩してしまう一因になり得るのです。
このような「あまりにもノーストレスな生活」も、ストレスになってしまうとわかってきて、動物園ではさまざまな工夫がなされています。
例えば、ただ容器に餌を入れて給餌するのではなく、容器を逆さまにして動物自らがスライドさせないとごはんを取れないようにするなど、給餌にゲーム的な要素を加え、ごはんにありつくまでに一手間必要な工夫を行っているところも多いのです。
ネコに対しても、ストレスになり得る変化は避けつつ、ごはんを得られるまでにいくつかのステップがあるような容器を使用するなど、適度な刺激を取り入れてみましょう。
<本稿は『猫がゴロゴロよろこぶCDブック』(サンマーク出版)から一部抜粋して再構成したものです>
(編集:サンマーク出版 Sunmark Web編集部)
Photo by Shutterstock
【著者】
高木佐保(たかぎ・さほ)
麻布大学特別研究員、ネコ心理学者、日本学術振興会特別研究員(SPD)
◎関連記事