相手を否定する人は脳科学的に見ても、やっぱりトクしていないという根拠
複数人での場で会話に困った時にスマートフォンを取り出して「一人」を演出する。誰もが一度は経験したことのある、この何気ない防衛本能。でも、なぜ私たちはそんな行動をとってしまうのでしょうか。
そこには、私たちの脳の働き方が密接に関わっています。具体的に脳の中では何が起きているのでしょうか。ロングセラー『なぜ僕は、4人以上の場になると途端に会話が苦手になるのか』よりお届けします。
◎前回記事はこちら
「根暗だと思われやすい人」と「いつも声をかけられる人」は何が違う?
「話せるようになる」にも、「感じがいい人になる」にも、脳の処理能力がカギを握っています。
では、「ぼっち」という空気を隠そうとあなたがスマホに指をかけるとき、頭の中はどうなっているのでしょう?
「敵を知るには己から」、です。ここに、手持ちぶさた感をカモフラージュするための「スマホいじり」や「着信待機」、そして「電話に出るフリ」から卒業するヒントが隠れています。
「話せない人」「根暗だと思われやすい人」と「話せる人」「いつも声をかけられる人」は何が違うのか、そこから検証していきましょう。
人は、黙りだすと止まらない!?
「脳の処理能力ってそもそも何?」
そう首を傾げた方も多いと思いますので、簡単に会話中の脳の仕組みについて掘り下げたいと思います。
会話中に働いているのは、脳の中でも前のほうに位置していて、言語や思考をつかさどる「前頭葉」という部分。ここがいわば、会話をあやつる脳の中枢部であり、会話脳の正体です。
そしてこの前頭葉には、言語を発するときに活動する「ブローカ野(や)」と呼ばれるところがあります。
さらに、脳の左横のほうに位置する「ウェルニッケ野(や)」には「他人の言葉を理解する」という役割があり、この2つが「コミュニケーションをとる」ときにはメインで使われます。
【ブローカ野】
「発言する」「文字を書く」「口や手の筋肉を動かす」といったことを担当する領域。簡単にいうと、最終的なアウトプットを専門とする部分。
【ウェルニッケ野】
人の話を聞いているときに働いているところ。聞こえてきた言葉を認識し、相手の意図を理解する役割を担う。こちらはインプット(情報処理)を専門とする部分。
会話中は、自分が話したり、相手の話を聞いたりすることを繰り返します。つまり、前頭葉にあるブローカ野と、インプットを担当するウェルニッケ野が相互に働きながら会話を進めていくことになり、これが「脳の処理能力」の正体です。
ところが、ここで困った問題がひとつ。
ブローカ野とウェルニッケ野は相互に作用しているため、どちらかが使われていないと、会話脳は衰えてしまいます。
ということは、話すことができずブローカ野が活性化しないと前頭葉の機能がどんどん低下し、結果、その場でコミュニケーションをとるのがますますむずかしくなっていくことに。
1対1なら乗りきれても、より脳の処理能力が必要とされる複数のコミュニケーションでは、「話す」担当のブローカ野が活発にならないと、「なんだかしんどいぞ」という状況にどんどんはまっていくことがわかります。
「しゃべりだすと止まらない」人はなんとなくイメージできると思いますが、その反対、「黙りだすと止まらない」もまた起こりうるのです。
「新しいタイプのコミュ障」が増えている
うーん、なんだかむずかしいなぁ。
そう感じている方も多いと思いますので、ここで、脳の仕組みを生かした「コミュ力を手っ取り早く上げる方法」をひとつお伝えしたいと思います。
「そうは言ってもさぁ〜、それは違うと思うな」
そんな何気ないひと言で、相手の機嫌が一気に悪くなったり、場のテンションが下がったり、なんていう経験は誰にでもあるんじゃないでしょうか。
こういった悲劇も、じつは脳の仕組みが関係しています。
脳には「新しい脳」と「古い脳」があります。
新しい脳というのは、先ほどご紹介した会話の中枢を担う「前頭葉」。前頭葉は、言語をつかさどるとともに冷静な判断をするなど、理性をコントロールするところでもあります。
一方、古い脳というのは、感情をつかさどる「大脳辺縁系」がある部分。こちらは、嫌なことをされたときカッとなって反応したり、危険を感じると「やばい」と逃避行動をとったりするなど、多くの動物に備わっている「本能レベルの反応」をつかさどっています。
新しい脳が古い脳より優位に働いていれば、感情に流されず冷静な判断ができるのですが、反対に、古い脳が新しい脳よりも優位だと、感情的になり冷静にものごとを考えにくくなるという事態に。
これをコミュニケーションに置き換えると、
◎新しい脳である前頭葉が活性化されていれば、場の空気を読んだり、相手の発言に適切な反応ができたりして「発言」できる。
◎一方、古い脳が活性化されれば、感情のまま、気の向くままに話し、場の雰囲気を壊してしまう。もしくは、ムスッと黙り込んでしまう。
極端にいうとこんな感じです。
開口一番に相手を否定するのは避けたほうがいい
ちなみに古い脳を活性化させるのは簡単で、否定語を発したり相手を傷つける言動をとったりすれば、相手の古い脳のスイッチは一気にオンになります。
「そうは言っても」と口にして雰囲気を壊してしまった場面。これはまさに、不用意なひと言で相手の古い脳を活性化させ、新しい脳を抑制して起こった失敗です。
何気なく口をついて出た「そうは言っても」という言葉ですが、これは相手を否定するフレーズ。
言われた人は、「なんだよ、偉そうに」とイヤな気分がむくむくと立ち上がります。これは、感情をつかさどる古い脳が活性化している状態。
古い脳が活性化すると、理性を担当する新しい脳は抑えられ、「人それぞれ意見があるよな」とか「言葉のアヤで深い意味はないんだろう」といった冷静な判断ができません。そして機嫌をそこねて、「なんだこいつ」「文句しか言えないのか、コミュ障だな」と思われやすくなるのです。
最近では、ただ話せない引っ込み思案なことを「コミュ障」というだけでなく、「空気が読めない」「人の気持ちがわからない」「早口で何言ってるかわからない」など、話せても相手の気を悪くしてしまうと「コミュ障」といわれることがあるようです。それくらい「コミュ障」と思われる基準が低くなっているので、古い脳を刺激する言動には気をつけたいところです。
これは自分の脳も同じで、「なんだか感じの悪い人だな」などとイライラしてしまうと、古い脳が活性化され、新しい脳が抑制されます。
そうなると、新しい脳のアウトプット領域も静まってしまうので、ただでさえ苦手とする複数コミュニケーションで余計に言葉が出づらくなるのです。
よって、複数のコミュニケーションを成功させるためには、自分も相手も古い脳を刺激せず、新しい脳である「前頭葉」をできるだけ活性化させることが、ひとつのポイントになると考えられます。
そのためにも、開口一番「いや」「違う」「そんなこと言っても」と言うのは避けましょう。
<本稿は『なぜ僕は、4人以上の場になると途端に会話が苦手になるのか』(サンマーク出版)から一部抜粋して再構成したものです>
(編集:サンマーク出版 Sunmark Web編集部)
Photo by Shutterstock
【著者】
岩本武範(いわもと・たけのり)
1975年、静岡市出身。静岡産業大学准教授、博士(工学/京都大学)。人の行動データ分析、ウェルビーイング、心の余裕の追究などを研究の専門領域としている。
◎関連記事