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「うつになるのは心が弱いから」と思う人に知ってほしい真実

 深刻なことでもないのに、なぜか涙が出る。本来は仲の良い友だちに嫉妬する――。そのときの精神状態次第では、これを「心が弱い」とか「性格が悪い」という言葉では片付けられない場合があります。

 40代女性ライター・高木が心理カウンセラーの下園壮太先生に心の悩みをぶつけた『とにかくメンタル強くしたいんですが、どうしたらいいですか?』

 前回(全6回)までの対話を経て、「プチうつ」と自覚した高木は、下園先生から見ると「うつに近い状態」。頭の働きが落ちて自分を責め、無力感にさいなまれてしまう。そして、感情のコントロールが難しくなるのも、うつの特徴だと下園先生は解説します。前回の続きをお届けします。

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『とにかくメンタル強くしたいんですが、どうしたらいいですか?』(サンマーク出版) 書影画像
『とにかくメンタル強くしたいんですが、どうしたらいいですか?』

ネガティブ感情だだ漏れモードに

下園:ここまでうつのサインについてお話ししてきました。1つ目は「頭の働き低速モード」。2つ目は自責感にさいなまれる「自分責めモード」、3つ目は「無力感モード」。そして4つ目は「ネガティブ感情だだ漏れモード」です。

高木:何ですか、それ?

下園:高木さんの宿題を思い出してみてください。「3日目には、テレビの録画設定ができなくて泣いた」「7日目には、同窓生の女医さんに嫉妬した」とおっしゃいましたね。これらはいずれも、ネガティブな感情が沸き起こってくるという状態です。つまり高木さんは、感情をコントロールできなくなりかけている、と言えます。

高木:ギクッ! その通りです。もう素直に認めます。

下園:たいしたことじゃないのに涙が出てしまったり、本来仲よしのはずの友達に嫉妬してしまったり。それらは「高木さんの心が弱い」とか「性格が悪い」という質の話ではまったくありません。

高木:そうなんですね、よかった。救われます。だって、昔からの友達に嫉妬するなんて、普通に考えたら、すごくみっともない話ですもん。そんな自分、恥ずかしすぎます。

下園:うつのときは、もののとらえ方や感じ方も、いつもの自分とかなり違ってくるんです。うつになると不安な気持ち、つまり「不安感」を抱えることが多くなります。いわば「不安感モード」です。そして、何事もネガティブにとらえるようになり、やがてはネガティブな感情に振り回されるように。私はそんな状態を「ネガティブ感情だだ漏れモード」と名付けています。

高木:「ネガティブ感情だだ漏れモード」。名前からして、もうヤバいですね。

下園:めちゃくちゃヤバい状態です。何がヤバいかというと、本人が、そういったネガティブ感情を、どうコントロールしてよいかわからず、途方に暮れてしまう点です。本人は疲れ果てていて、むしろ感情を動かしたくないとさえ思っている。心穏やかに過ごしたいと願っている。でも、不安や怒り、嫉妬などにとらわれてしまうというわけです。

高木:それ、わかります。私自身は、悲しみや嫉妬の感情なんて、味わいたくないですもん。でもひとりでに湧いてきてしまうから、仕方がない。

下園:高木さん、それはもうイエローカードです。

うつの本質は「疲労」、まずはよい睡眠を

高木:はい、私もそう思います。そこまで証拠が揃っているのなら、私は確かに「プチうつ」なんでしょう。じゃあいったい、私は今からどうすればいいですか?

下園:それはもう「対処」ですね。「プチうつ」にはきちんとした対処が必要だと思ってください。

高木:あのう、「対処」って、どういうものですか? 私、さっきも言いましたが薬はなるべく飲みたくないし、仕事を休んだりできる状況ではないのですが。

下園:安心してください。高木さんに必要な対処は、そんなに大がかりで大変なものじゃありません。最初に答えを言ってしまうと、まずはただ、よい睡眠をとるだけでOKです。うつの特効薬って、心身を休めることなんですよ。それだけ。ザッツ・オール。

高木:え、それだけですか。いやそんなことないはずです。やだ心身を休めるだけでいいなんて。「心身を休める」なんて誰でもやってることじゃないですか? ほんとうにそんなことで、プチうつモードから脱出できるんですか?

下園:単刀直入に言いますと、うつの本質って「疲労」なんです。

高木:ちょっと待ってください。「疲労」って、あの体の「疲労」ですか?

下園:正確には「肉体疲労」と「精神疲労」があります。でも「肉体疲労」と「精神疲労」って基本的には連動しているんです。体が疲弊している状態で、ポジティブになるのはなかなか難しいように。単純に体が疲れている。なのにがんばり続けようとする。すると「精神疲労」がたまり、心のエネルギーが不足する。

高木:確かに体が疲れていると、なかなかがんばれない。でも、「うつは心のかぜ」っていうキャッチコピーを何度も見かけたことがありますよ。疲労と関係なく、うつになるのでは?

下園:あのコピーには、言葉を補う必要があります。「心がかぜをひく前に、そもそも体が弱りきっていたのがまずかった」、そんな意味だと理解してください。

高木:でも信じられません。うつの本質が「疲労」だなんて!

心が弱いからうつになるのではない

下園:エネルギーが不足すると、充電しないといけないですよね? 車と同じです。給油しないといけない。だから、体はブレーキをかけるんです。「疲労がたまっているけどがんばる」というのは、エネルギーが足りなくて、ブレーキをかけようとしているのに、アクセルを踏んでいる状態です。そりゃ、つらいですよね。車だったら壊れるかもしれない。

高木:なるほど。心が弱いからうつになるのではなく、疲労してるのに、アクセル踏むことで、心身に異常が出てるって感じでしょうか。

下園:そうです!「心というよりもむしろ、肉体の疲労からくるトラブル」と説明されると、納得できるでしょう? それに、うつになる人の数が増えていることの説明もつきますよね。「心が弱い人」が増えているのではなく「体が疲れすぎている(ことに気付かない)人」が増えている。だから、うつの患者さんが増えているんです。

高木:それはそうかもしれませんが。実際、みなさん、そんなに体が疲れているんでしょうか?

下園:はい。言い換えると「体の疲れを自覚できない人」が増えている、ということになります。それに、「疲れている」と勘付いていても、うまく休めない人があまりに多いんです。たとえば、仕事が忙しすぎて物理的に休めなかったり、間違った「休み方」や「リフレッシュ法」で余計に疲れてしまったり。

高木:ドキ。先生、それが私のことですか?

下園:はい。もう答えを言ってしまっていいですか。

高木:お願いします。

<続きは後日配信します。本稿は『とにかくメンタル強くしたいんですが、どうしたらいいですか?』(サンマーク出版)から一部抜粋して再構成したものです>

(編集:サンマーク出版 Sunmark Web編集部)
Photo by Shutterstock


【著者】
下園壮太(しもぞの・そうた)
NPO法人メンタルレスキュー協会理事長。元・陸上自衛隊衛生学校心理教官

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