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「嫉妬」という感情にとらわれるのは人生にとってもったいない時間だ

「嫉妬」は多かれ少なかれ誰しもが持っています。ただ、他人をうらやむ気持ちが行き過ぎると、さまざまな弊害を生み出すこともある厄介な感情ともいえます。

 膨大な研究結果をひもときながら、「よい人生」を送るための52の思考法をまとめた『Think clearly 最新の学術研究から導いた、よりよい人生を送るための思考法』の著者、ロルフ・ドベリさんは「嫉妬をコントロールする能力は人生に不可欠」と指摘します。

『Think clearly 最新の学術研究から導いた、
よりよい人生を送るための思考法』

古代ギリシア人も、猿も、「嫉妬」していた!

「友人が少しずつ成功するたびに、私は少しずつ死んでいく」

 毒舌で知られたアメリカ人の小説家、ゴア・ヴィダルは、あるインタビューでそう語った。ヴィダルは、人間なら誰もがときどき襲われるが誰もが認めたがらない、あらゆる感情の中でももっとも無意味で役に立たない有害な感情の話をしている。その感情とは「嫉妬」である。

 だが、嫉妬の無意味さが認められるようになったのはここ最近のことではない。嫉妬については、すでに古代ギリシアの哲学者たちも警告を発している。聖書にも、カインとアベルの寓話をはじめとして、嫉妬の破壊的な力を表す物語がたくさんある。そして白雪姫。この謎めいた童話は、嫉妬そのものがテーマだ。

 イギリスの哲学者、バートランド・ラッセルも、「嫉妬は、不幸を招くもっとも大きな要因のひとつだ」と述べている。

 嫉妬は、身体的な障害や経済的な破滅より、もっと人生の満足度を低下させる。

 だからこそ、嫉妬をコントロールする能力は人生には不可欠であり、そのコツを身につけられればよい人生を手に入れるための基本的な条件を満たしたことになる。だが、嫉妬の感情は進化のプログラムに組み込まれてしまっているため、それを抑え込むのは簡単ではない。

 嫉妬は、人間だけの感情ではない。動物も嫉妬する。

 猿の研究者のフランス・ドゥ・ヴァールとサラ・ブロスナンは、「2匹のオマキザルに、簡単な課題をこなすたびに、褒美としてきゅうりスティックを1本与える実験」をした。課題をこなした猿はどちらも満足気で、うれしそうにきゅうりスティックを受けとった。

 だが次の課題では、1匹目の猿には前と同じようにきゅうりスティックを、2匹目の猿には甘いぶどうを与えてみた。

 すると、そのことに気づいた1匹目の猿は、嫉妬のあまり与えられたきゅうりスティックを檻の外へ投げ捨て、その後は実験に協力しようとしなかった。

「自分と同レベルの相手」に嫉妬する

 嫉妬に関して特筆すべきは、自分と同レベルの相手のほうが、嫉妬の対象になりやすいという点だ。

 私たちが特に嫉妬を感じるのは、年齢や、職業や、環境や、暮らしぶりが「自分と似た人たち」に対してだ。プロのテニスプレーヤーはほかのプロテニスプレーヤーと、優秀なマネージャーはほかの優秀なマネージャーと、作家はほかの作家と、自分を比較する。

 たとえば、ローマ法王とあなたとでは、立場が違いすぎるため、嫉妬を感じることはない。アレクサンダー大王などもそうだ。

 あなたと同じ地域で生きていた成功者といえども、それが石器時代の人物だった場合には、やはり嫉妬の対象にはならない。ほかの惑星の住人や、颯爽としたホホジロザメや、巨大なセコイヤの木に対しても、感嘆はしても嫉妬の感情はわいてこない。

 そう考えると、「嫉妬に対する対処法」は自然と明らかである。誰とも自分を比べなければいい。そうすれば、嫉妬とは無縁の人生を送ることができる。他人と自分を比較するのを一切やめてしまえばいいのだ。それが嫉妬を感じずにすむ、一番の近道だ。

 だが、言うは易く行うは難し。他人と自分を比較せざるをえない状況も、ときにはある。

 たとえばカリフォルニア大学では、「職員の給与の公開」が義務づけられている。ウェブサイトを見れば、同僚がいくらもらっているかを調べられる。

 そして当然、給与が平均を下回る職員の仕事に対する満足度は、その事実を知る前より知った後のほうが低くなる。組織の透明性を保つために、職員の幸福が損なわれているといえる。

「他人と比較する」行為が、幸せを遠ざける

 こうした他人との比較が、もっと大々的に行われているのがソーシャルメディアだ。

 フェイスブックがユーザーの多くをいらだたせ、疲弊させることは、すでによく知られている。

 ベルリンのフンボルト大学の研究チームは、その原因を究明するための調査研究を行った。その結果、「一番の原因」として指摘されたのは何だったとあなたは思うだろうか?

 すでにお察しと思うが、「嫉妬」である。

 フェイスブックが「気の合う者同士が、互いを比較し合う仕組み」になっていることを考えれば、当然の結果かもしれない。ここは、ねたみの温床になってしまっている。

 だから、ソーシャルメディアからは、大きく距離を置いたほうがいい。

 自分を他人と比較するばかげた目安(「いいね!」や、フォロワーや「友だち」の数など)がいくつも設けられているせいで、私たちは、知らず知らずのうちに、常に不満を抱えていなければならなくなる。

 そのうえあなたがアップロードしているのは、楽しい生活を送っていると思われるよう、入念につくりこんだ写真ばかりのはずで、あなたの日常生活を忠実に表したものではない。そんなことをしていれば、実際には自分より友人たちのほうが幸せなのだと考えるようになるのも当然である。

 現代ほど、他人との比較がさかんに行われたことはない。インターネットのおかげで、嫉妬はいまや社会に蔓延する悪癖のひとつになってしまっている。

 ソーシャルメディアの使用を減らせたら、次は、「実生活で、他人と比較せざるをえないような機会」も避けるようにするといい。

 たとえば、同窓会に出席するのはやめたほうがいい。ひょっとしたら、収入面でも、健康面でも、家庭生活も、社会的な地位においても、同級生たちの中でもっとも順調なのはあなたかもしれないが、そもそも同窓会に行かなければそんなことは知りようもない。

 住むところに関しても、自分がその地域の「上流階級」に位置するような町や地区を選ぼう。社会的な付き合いも同じだ。あなたが資産家でもない限り、ほぼ富豪ばかりで構成されるロータリークラブに入会するのはやめたほうがいい。どこかに所属するなら、民間の消防団にでも参加したほうが居心地がよく、よほど有意義だ。

人生の満足度はそれひとつで決まるわけじゃない

 ただし、「フォーカシング・イリュージョン」(「特定のことについて集中して考えているあいだはそれが人生の重要な要素のように思えても、実際にはあなたが思うほど重要なことでもなんでもない」という錯覚を表す言葉)には気をつけてほしい。

 たとえばあなたは、相続した遺産でシルバーメタリックのポルシェ911を購入した隣人がうらやましくて仕方がないとする。隣人が愛情をこめて「シルバーの子猫ちゃん」と呼ぶその新車は、あなたの家のリビングの窓からよく見える場所にいつも停められている。

 隣人がエンジンをふかす音を聞くたびに、あなたの胸には小さな痛みが走る。なぜなら、あなたは「ある部分だけ」に意識を集中させてしまっているからだ。

 隣人の生活を自分の生活と比較するとき、あなたの意識の焦点は、無意識のうちにその「相違点」だけに絞られている。

 つまり、あなたが乗っているフォルクスワーゲンのゴルフと、隣人のポルシェ911を比較するだけで、車が人生の満足度に与える影響を過大評価しているのだ。

 そしてあなたは、隣人は自分よりもずっと幸せなのだと思い込む。客観的に見れば、車が人生の満足度に与える影響など微々たるものでしかないというのに(そもそも車と人生の満足度に関連があるかどうかすら疑問だ)。

 ところが、あなたに「フォーカシング・イリュージョン」に陥っている自覚がありさえすれば、あなたの嫉妬の棘は、わりと簡単に抜くことができる。あなたが誰かの持ち物をうらやましく思ったとしても、実際にはそれらは、あなたが思うほど重要なものではないのだから。

 それでもなお、あなたの中に嫉妬の炎が燃えさかってきたときには、消防用のホースで消火しよう。どうするか。嫉妬を感じる相手の「人生における最大の問題点」を意識的に探し出し、そのせいでその人物がどれぐらい困っているかを考える。そうすれば、すぐにあなたの気持ちは晴れるだろう。妄想のすすめだ。あまり品のいい解決法でないのは確かだが、緊急事態の火消しには役に立つ。

あなたが嫉妬の対象にされたなら

 もし、あなた自身がひどい嫉妬の対象にされたときには、謙虚になろう。そうすれば、相手の嫉妬も少しはおさまり、その人の苦悩を最小限にとどめることができる。

 謙虚さは、世の中のためになる。よくいわれるように、成功した後の最大の課題は、その成功について口をつぐんでおけるかどうかだ。すでにあなたはそうしているなら、誇りに思っていい。

 結論。あなたの近所にも交友範囲にも行動範囲にも、必ずあなたよりよい人生を送っている人がいるという事実を受け入れよう。1日も早く、あなたの感情のレパートリーから「嫉妬」を外したほうがいい。

<本稿は『Think clearly 最新の学術研究から導いた、よりよい人生を送るための思考法』(サンマーク出版)から一部抜粋して再構成したものです>

(編集:サンマーク出版 Sunmark Web編集部)
Photo by Shutterstock


【著者】
ロルフ・ドベリ(Rolf Dobelli)
作家、実業家

Book Lover LABO

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