「土地勘」と「土地鑑」は元々どっちが正しいか知っていますか
私たちが日常的に使っている言葉の中には、実は誤った漢字として定着してしまっているものが意外とたくさんあります。
「散りばめる」「投げ打つ」「土地勘」・・・本来は? 『教えて! 宮本さん 日本人が無意識に使う日本語が不思議すぎる!』より、お届けします。
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「土地勘」は元々は間違い!?
宮本隆治(以下、宮本):、読み方が同じでも、本来とは違う漢字で間違えて覚えているものも結構あります。たとえば、「ちゃぶだい返し」って聞いたことがありますか?
アン・クレシーニ(以下、アン):あるある! めちゃくちゃ怒ることよね。
宮本:そうです。せっかくのお膳立てを、怒りで台無しにしてしまうことを指します。では、この「ちゃぶだい」とは何のことでしょう?
アン:ええっと、日本で畳の上に置かれている食事用の座卓ではないのかな?
宮本:正解です。では、漢字はどう書きますか?
アン:ご飯を食べるし「茶ぶ台」って書いてあるのを見たことがある。
宮本:そう思いますよね。実は、不正解なのです。本来は「卓袱台」と書いて「ちゃぶだい」と読みます。もともとは、中国語なのです。テーブルクロスのことを中国語で「卓袱」(ちょうふ)と言っていてその発音が元になっていると言われています。ちなみに、中国料理や西洋料理が日本化した長崎の宴会料理のことは、同じ漢字を書くけれど「卓袱(しっぽく)料理」と言います。
アン:これは、勘違いしやすい。難しすぎて、外国人の私にはさっぱり理解できん。でも安心して! アンちゃんは卓袱台をひっくり返したりしないよ!
宮本:最近日本には、卓袱台があまりありませんしね(笑)。
アン:宮本さん、他にも、日本人でも間違えた漢字で覚えている慣用句ってある?
「鏤(ちりば)める」「擲(なげう)つ」「土地鑑」が本来の言葉
宮本:あります。最近は、ひらがなで書くことが増えた言葉は、間違って覚えている人も多いと思います。
たとえば、
「いたぶる」は、「甚振る」が正解。「痛ぶる」は間違いです。
本来の意味は、激しく揺り動かすこと。そこから、自分よりも弱いものを痛めつけたり、嫌がらせをしたりすることという意味が生まれました。
「ちりばめる」は、「鏤める」が正解。「散りばめる」は間違いです。
金銀、宝石などを一面に彫ほってはめ込むという意味です。
「なげうつ」は、「擲つ」が正解。「投げ打つ」は間違いです。
意味は、投げ捨てる、惜しげもなく差し出すとなります。
「こころなしか」は、「心做しか」が正解。「心無しか」は間違いです。
心の中でそう思うことという意味です。
「たまにきず」は、「玉に瑕」が正解。「玉に傷」は間違いです。
優れていて立派であるが、ほんの少し欠点があることを意味します。「玉」は優れているもの、「瑕」は不完全なことを指します。
「ことのほか」は、「殊の外」が正解。「事の他」は間違いです。
意味は、思いのほか、予想に反して程度がはなはだしい様子。
「とちかん」は「土地鑑」が正解。「土地感」は間違いです。
今では辞書にも記載のある「土地勘」のほうが知られていますが、元の意味から言えば「土地鑑」が正解です。これは元は警察用語で、「鑑識」「鑑定」同様、「鑑」には「見分け」「判断」という意味があります。その土地の事情に通じていることを指します。
「おんのじ」は「御の字」が正解。「恩の字」は間違いです。
「御」という字は、尊敬の意を示したり、名詞の頭につけて丁寧に言うときに用いる言葉なので、「御」をつけたくなるほどありがたいという意味です。
「ききいっぱつ」は「危機一髪」が正解。「危機一発」は間違いです。
髪の毛一本ほどわずかな差で、危機に陥るかどうかの瀬戸際、という意味で使います。大きな危機が一発ある、ではないので注意しましょう。
といったところでしょうか。
アン:わー、これって殊の外、難しい! アンちゃんは日本に来たころ、「台風一過」を「台風一家」、「波浪警報」を「ハロー警報」だと思っていた。耳で聞いて覚えると、間違いやすい。
宮本:ハロー警報ですか(笑)。警報よりも吉報を想像させますね。アンちゃんの発想力には脱帽です。
アン:脱帽って?
宮本:敬意を表して、被っている帽子を脱ぐことから、相手に敬意を示すことですよ。
<本稿は『教えて! 宮本さん 日本人が無意識に使う日本語が不思議すぎる!』(サンマーク出版)から一部抜粋して再構成したものです>
(編集:サンマーク出版 Sunmark Web編集部)
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【著者】
アン・クレシーニ
北九州市立大学准教授
宮本隆治(みやもと・りゅうじ)
元NHKアナウンサー
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